ディスカヴァーより献本御礼。

読まれるべき、しかし鵜呑みにしてはならないダメ本。ダメという点においては鳩山論文を凌駕する。だからこそ目を通しておくべき。

元住人として弾言する。本書の「アメリカ人」はアメリカ人にあらずと。

現住人として弾言する。本書の「日本人」は日本人にあらずと。

にも関わらず、なぜ日本人たちは本書の「アメリカ人」や「日本人」をみてうなずいてしまうのか。そこに問題を解く鍵がある。

本書「もうアメリカ人になろうとするな」は、元技術系通産官僚という、今の日本のイメージ = 虚像を内外にたらしめた立場にあった著者が、著者の脳内イメージに基づく「アメリカ人」と「日本人」を論考し、そして「日本人」に向け今後どうすればよいのかを説いた本。「日本人向け」でない点に留意されたし。

目次 - Discover: ショッピングカートより
目次
第1章 動揺する日本社会
第2章 アメリカ社会の表と裏
第3章 日米社会の基本構造の違い
第4章 新しい日本主義のすすめ
1 「日本主義」の提案
2 規制強化の声をあげよ
3 みなが安心できる暮らしを
第5章 二十一世紀の日本社会の繁栄のために何ができるか
1 プロダクトイノベーションをめざして
2 高次に回帰しよう、日本型経営
3 会社は社会的存在を目指そう
4 二十一世紀の日本の使命
第6章 日本主義の展開
1 日本型株式市場
2 規制が主、取締りが従
3 官の役割の再評価
4 やさしさのなかにも活力を
5 国際社会に向けて日本主義の主張

著者の前提とする「アメリカ人」や「日本人」は、まさに日本人が思い描いている、かっこ抜きのアメリカ人や日本人であろう。日本で最も非日本的な出版社の一つであるディスカヴァーを率いる人がうなずいてしまうほど。

ディスカヴァー社長室blog: アメリカ人と日本人、やっぱり違う!? アメリカでうまくいった方法が日本でもうまくいくとは限らないわけ ●干場
和より競争、平等より格差、長期的視点より目先の利益、情より公正さ、規制より自由、従業員より株主……それらのアメリカ的価値観は、はたして日本人に適したものだったの?

しかし待っていただきたい。これって本当なのか。

否、である。

404 Blog Not Found:安心!=信頼 - 書評 - 安心社会から信頼社会へ
安心
社会的不確実性が欠如した状態で、相手が自分の期待通りの行動を取ると期待すること
信頼
社会的不確実性が存在した状態で、相手が自分の期待通りの行動を取ると期待すること
こうして定義された信頼をもとに、日米の被験者がどれだけ他人と信頼関係を結ぶのかという実験を行ったところ、日本人の被験者の方が明らかに信頼関係を結ぶのに躊躇する割合が高く、そしてこの実験に「安心」の要素を加えて行うと他人と関係を結ぶ確率の増加が日本人の被験者の方が大きかったのだ。

もし日本人が本当に和を尊ぶのであれば、日本人の方が信頼的になってしかるべきだが実際は逆である。日本人は和を尊んでいるのではない。乱を忌み嫌っているだけなのだ。「長期的視点より目先の利益」が事実なら、なぜ内閣の寿命はかくも短命なのか?「平等より格差」も然り。日本でもダイバーシティという言葉が徐々に使われるようになったが、この言葉を輸入していること自体、日本人の方が平等に無関心であることを示している。「情より公正さ」も然り。米国の激情が世界一であることは、イラクとアフガニスタンで存分に証明されている。「規制より自由」が事実なら、なぜ日本の独禁法はこれほどゆるいのか。そして「従業員より株主」が事実だとしたら、なぜGMは破綻してしまったのか。

両方の社会で生きてきた経験をふまえて私が至った結論は、日米の違いで抑えておかねばならないのはこれだけだということ。

  • わかって当たり前が日本
  • わからせて当たり前が米国

なぜ米国では金が尊ばれるのか?それが最も分かりやすい表現だからだ。英語よりずっとわかりやすい。なぜ日本で金が穢れ扱いされるのか?それが最も分かりやすい表現だからだ。金にものを言わせるのは、相手の理解力をないものとして扱う行為に相当するわけだ。

そんな日本人でも、「わかって当たり前」が通用しない相手がいる。

ガイジン、だ。

この言葉は、日本国籍を持たないものを意味しない。日本人の「常識」が通用しない相手を指す言葉である。面白いことに、日本人はガイジンを排斥するどころか手厚くもてなす。客としてなら日本は最高の場所だ。

だから、私は日本にいられる。

「日本人としては許しがたいが、弾なら仕方がない」と何度言われたことだろう。かつて私は醜いアヒルの子だった。懸命にアヒルになろうとすればするほど苦しかった。しかし一旦黒鳥であることを自覚し、アヒルになることを諦めた途端、この国は(優|易)しくなった。

だから今の私は日本人になろうとはしていない。アメリカ人になろうともしていない。弾になろうとしているだけだ。

そして実のところ、日本人というのは自分になろうとするのが下手ではない。その一番の証拠は「いいところどり上手」なところだ。もし「これを呑んでしまっては自分は自分でなくなってしまう」と思い込んでいたのだとしたらこうは行かない。

確信できる日本の継続性 日本の「革命」に期待してはならない理由 JBpress(日本ビジネスプレス)
東京という都市も、絶望的な不況に陥った国の首都とはとても思えない。「ミシュランガイド」が東京のレストランに与えた星の数は合計で、パリのレストランのそれより多い。本紙(英フィナンシャル・タイムズ)のコラムニストで、ファッション関連のコンサルティングも手がけるタイラー・ブリュレは、日本のスタイルを高く評価し、最先端のデザインを求めて東京の街を歩き回っている。

これらはいずれも猿真似ではない。きちんと「元祖」を呑み込んだ上で、「本家」を主張できるレベルにまで高めたからこその評価だ。東京の無国籍で無秩序な町並みは、日本人なるものの不在の証。そこにいるのは「ガイジン」と「目利き」なのだ。

日本人が目指すべきは、「日本人」でも「アメリカ人」でもない。

己、なのだ。

そしてこれを目指すべきは、日本人だけではない。

アメリカ人もそうだし、全世界の人々がそうなのだ。

子ブッシュの政権ほど、「アメリカ人になれ」とアメリカ人がお互いに言い合った時代は存在しないのではないか。「フレンチ」フライをフリーダムフライだなんて、日本の戦前の「敵国語」の扱いよりひどい。それはアメリカの醜いところが最も現れた時代だった。

もうアメリカ人になろうとするな。

日本人にもなろうとするな。

おまえに、なれ。

Dan the Alien in Tokyo