Amazonで見つけてあわてて購入。

知らなかった。

このあまりに重要な業績が、本書まで邦訳されていなかったことを。

[追記あり]

本書「通信の数学的理論」は、情報科学にとっての「プリンキピア」。情報をデジタルに扱うという、今我々が空気のように扱っている手法は、すべてここから始まったのだ。

目次
通信の数学的理論への最近の貢献(ワレン・ウィーバー)
通信の数学的理論(クロード・E.シャノン)
I 離散的無雑音システム
II 雑音のある離散的通信路
III 連続情報
IV 連続通信路
V 連続情報源のレート
付録
訳者解説

シャノンの最大の功績は、情報という曖昧模糊としたものに、計測可能で明快な定義を与えたことにある。そう。情報は計れるのだ。計れるおかげで我々はコンピューターを設計できるし、計れるおかげでインターネットを構築できる。bit や byte といった、今や専門家でなくても当たり前に使っている言葉も、シャノンあってのことなのだ。

そして、今や我々は生命の設計図すら「そういうやり方」で書かれていることを知っている。DNAは単にデジタルなだけではなく、二進法の親戚である四進法だった。原著の重要性は宇宙背景放射に似ている。あまりに重要で、そしてありとあらゆる場所に登場するので、空気化してしまっているのである。本書が訳出されたのが今年だということがそれをよく示している。シャノンがどうやって情報を測ったか、シャノンという名を聞いたことがない人も知っているし、そして知っている人はそれがシャノンの業績であることも知っていたにも関わらず、原典が訳出されていることに誰も驚いていなかったのだから--それが出るまでは。

原典というのは簡単なものだとは限らない。実際「プリンキピア」は難しい。同じことを理解するのであれば、後世に書かれた解説の方がずっといい場合の方が多い。たとえば逆二乗の法則の導出なら、数学入門の方がずっとすっきりしている。

ところが、本書は驚くほど簡単なのだ。本書には数式も当然登場するが、連続情報に関するものを除いてすべて高校生であれば必ず習う(はずですよね?)対数までの知識があれば確実に理解できる。しかも単に数式を並べてあるだけではなく、具体例をきちんと示しているので、「体育会系」でもばっちり。連続情報のところは微積分の知識が必要だが、アナログ情報に関するそこは飛ばしてもかまわない。IIまでわかれば充分なのだから。

そういうわけなので、本書は情報理論の基礎を学びたいひとのみならず、論文アレルギーを克服したい人にもお勧めだ。知らない人は「論文」というだけでなんだか難しいものを予想してしまうが、何のことはないただの文章に過ぎない。そして論文であればこそ、簡潔なものほど価値は高い。少なくとも、論文においては難解であることそのものは無価値どころかマイナスの価値である。

一つだけ留意を。シャノンが測ったのはあくまで情報「量」であって、その質は一切問わない。我々が言う「ノイズ」とシャノンが定義した「ノイズ」はそこが決定的に異なる。たとえば

ツイッターはなぜノイズが少ないか - 池田信夫 blog
最近、2週間ほどツイッターを使ってみて、意外にノイズが少ないことに気づいた。

という場合の「ノイズ」は、シャノンのノイズではない。SPAMだろうがHAMだろうが、発信者の「原稿」とどれだけ「ずれている」かがノイズで、その意味でSPAMがそのままあなたの mailbox に飛び込むのもまた、シャノンの功績と言えなくもない。

もう一つ例をあげよう。小柴昌俊にノーベル賞をもたらしたカミオカンデにとって、ニュートリノというのは本来の目的、すなわち陽子崩壊の観測という点からすればノイズに相当する。その「ノイズ」の中に、ノーベル賞をもたらした「シグナル」が入っていたのだ。

「意味」や「価値」まで含んだ「シグナル」と「ノイズ」の峻別は、シャノンのそれとは違う。もちろん知っている人はあくまでそれが比喩であることを知った上で使っているのだが、それが比喩で、「オリジナル」とはどれだけ違うのかということ知っておくためにも、本書は一度は目を通しておくべきだ。

Dan the Source of (Noise|Signal)

追記:私の生年に1969年に訳出されていたらしい。

しかし、ウィーバーじゃなくてヴィーヴァー、ISBNもなし。これではわからん><。本書の中にも前書に関する言及ゼロ。「本書は、ちくま学芸文庫のために新たに訳出されたものである。」これではわからん><。復刊でなくて新訳したのはどうしてなのだろう。