ディスカヴァーより献本御礼。
長女のケータイに架空請求電話が来たことで、未書評だったことを思い出した。
ディスカヴァー社長室blog: 友情は金で買えないのではなくて…… あなたが10億円と交換してもいいと思うのは? ●干場少し前のNHKスペシャル、私は見逃してしまったが、いっこうに減らない「振り込め詐欺」、若者達、それも一流大学・一流企業の若者達が首謀者となっているケースが増えているという
本書はこれを書籍化したものであるが、これは、ひどい。
ただし、振り込め詐欺が、ではない。
本書「
- はじめに
- 第1章 巨額をむしり取る振り込め詐欺ビジネスの仕組み~格差が生み出した現代型犯罪~
- 被害総額1317億円超の現実/暴力団幹部からの1本の電話/平凡な青年が荒稼ぎ/地道に働いて人生終わるのはつまらない/アジトはウィークリーマンション/仕事感覚――ノルマは1日200万円/究極の詐欺マニュアル//カネを振り込ませるための伏線ーーアポ電/時事ネタは使える/いいカモからは おかわりする/危ない仕事は出し子にやらせる/飛ばしのケータイと銀行口座/絶対に捕まらない/道具はいくらでも調達できる/簡単に偽造できる日本はユルい
- 第2章 「捕まるのは下っ端だけ」 ~ワーキングプア・失業者が日雇い犯罪者に~
- 残金ゼロ。絶望からのSOS/金に困る人々を引き寄せる「闇の求人サイト」/まっとうな人生から犯罪者への転落/出し子は使い捨てのコマ/飢え死にしないためには、ヤバくても仕方ない/やはり、人の道には外れられない……/大不況――若者が押し寄せるドヤ街/もう"出し子"やるしかない/堕ちる前に、誰かに止めてほしい/境界をさまよう若者たち
- 第3章 有名大学・一流企業出身のエリート犯罪者たち ~犯罪意識の消滅~
- 若者たちによる社会への復讐/"ニュータイプ"犯罪者の登場/一流企業で働くプライドと夢/「リストラ」という名の裏切り/「自分のやり方で稼いでやる」 /詐欺に群がる大学生/ほめるふりして、心を操る/稼いだカネで起業したい/親の死ーー取り返しのつかない現実/ 社会が悪い、世の中が悪い/無邪気にはしゃぐ犯罪者/行きつけのキャバクラで豪遊/エリート大学生の正体/いい車、いい家、いい女……カネがすべて/「みんな、やってるから」/まるで大学のサークルや合宿/だまされる方が悪い
- 第4章 実録:エリートたちが群がる巨大振り込め詐欺グループの裏側
- 過去最大級の振り込め詐欺グループ摘発/「キング」と呼ばれた男の素顔/ジリ貧のヤミ金融から、ぼろ儲けの振り込め詐欺へ/振り込め詐欺ののれん分け /エリートの転落/友人より優位に立ちたい/500万のベンツで同級生を見返した日/母親との面会/早稲田の現役大学生逮捕/目的を見失った高校時代/悪のカリスマ/友達と一緒にいたくて詐欺グループに/「俺は2億円持っている」/稼げないやつは能力がない
- 第5章 「命のお金を奪われた」 ~被害で一変した暮らし~
- 振り込め詐欺被害者 10万452人/山口県のある老夫婦の場合/データ紛失で200万円/息子を助けたい一心で150万円を追加/命のお金を奪われた/絆まで奪われた/被害者64人へのアンケート/家族関係に深い亀裂が/被害で自殺者も……もはや殺人/
- 第6章 振り込め詐欺対策の現状 ~撲滅に向けて動き出した警察~
- 過去最悪のペースで増加/犯人が捕まらないーー低い検挙率/新たな犯罪組織の出現/*目次より抜粋
その正義のみかたっぷり、以下のごとくである。
4ヶ月、120日間に渡った振り込め詐欺犯の取材で見えてきたものはとても語り尽くせないが、少なくとも現代社会の病巣を示すキーワードは見えてきた。
「拝金主義」「家族の崩壊」「孤独」「未来への希望のなさ」
振り込め詐欺は現代社会の歪みを映し出す鏡だった。
でたーっ、「現代社会の歪みを映し出す鏡」。
歪んでいるのは、取材班の心の目ではないか。
振り込め詐欺は、現代型の、巧妙な、犯罪である。
しかし、「現代社会の歪みを映し出す鏡」ではない。
被害総額1317億円超?確かに著者が想定する視聴者と読者には大きな数字だろう。しかしバブル時代には、一人でこの20倍の被害を与えたものさえいる。そしてこの1300億円という額は、合法的な金貸しの息子の追徴課税額でもある。これらの方がよほど現代社会の歪みなのではないか。
本書は振り込め詐欺を、あくまで「拝金主義に冒された強い若者が、未来への希望がない弱い若者を手足に、崩壊した家族の隙をついた悪行」と捉えている。それは、取材班にとっての真実かも知れないが、客観的な現実とはほどとおい。
現実には、悪党はさらに賢い。犯罪になることをやっているぐらいは小物である。巨悪は合法的に悪行を進める。だからこそ武富士の息子は一人で振り込め詐欺の被害を全て弁済できるほどの財産を持つに至ったのだ。だからこそ1500兆円の個人財産の大半は今際の際の人々の手にあるのだ。
P. 209平成16年から平成20年までの5年間で、被害額は、1317億6063万7637円にのぼり、被害者は、のべ9万6491人にのぼっている。
被害者一人当たり136万5523円。
これだけの額を、被害者たちは電話一本で振り込んだわけである。まずそれが信じられない。私も身内に金を貸したことはあるけれど、その際には必ず金銭消費貸借契約書を作成している。その1/10の金額でも、だ。これこそ、親しき仲でも譲れない礼儀ではないのか。
被害者には気の毒な言い方になってしまうが、その意味で被害者は「礼儀知らず」ということになる。
しかし、問題の根はそこではない。そういう知識も注意力もなかった被害者にはそれだけの貯金があるのに、それだけの知識も注意力もある若者には、それだけの貯金がなかなか出来ないことにあるのではないか。
それこそが、真の現代社会の歪みなのではないか。
しかし、本書のメッセージは、「NHKはか弱いお年寄りをずる賢い若者から守ります」というものだった。中の人々が、仕事外でそういう心構えでいるのはいっこうに構わないが、しかしそれをNHKの名のもとに行うのは、公共放送の私的利用というものではないのか?
本書の著者は、まさにこれらの意味で「典型的なNHK取材班」であった。
著者らの自らの正義を信じて疑わない姿勢は、優秀な詐欺師に通じる資質なのではないか。
詐欺の被害者とならぬたった一つの方法。
それは、自らを疑うこと。
ゆえに、本書の著者もまた、自らを被害者とした加害者なのである。
Dan the Skeptic

予想通り、犯罪者が悪いだけで被害者は悪くない、なんていう頭の悪いコメントがあるけどさ、じゃあお前は、泥棒が悪いに決まってるのだから、家の玄関の鍵を閉めずに外出すんのが常識的に考えてまともな行動なのか、って問いたいね。