日経BPより献本御礼。
長らく書評しそびれていたことが悔やまれる。
[訃報]軍事評論家・江畑謙介さん死去 - livedoor ニュース江畑謙介さん60歳(えばた・けんすけ=軍事評論家)10日、呼吸不全のため死去。葬儀は近親者のみで済ませた。
著者の作品はかなり読んだが、やはり本書が最も面白く役に立つ。特に平和時にも役立つという点において本書の価値はひときわ高い。著者の訃報を受けて早速売り切れているのもうなずけるところだ。
本書「軍事とロジスティクス」は、日本で最も有名な軍事研究家による、軍事行動のうち最も重要で、にも関わらず最も知られていないロジスティックスについて、主に米軍の事例を紹介しつつ考察する一冊。こういうことを書ける人が早逝したことが社交辞令ではなく悔やまれる。
目次 - 日経BP書店|商品詳細 - 軍事とロジスティクスより
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軍事を氷山に例えれば、ロジスティックスとは海面下にある部分に相当する。氷山の大部分を占め、海面上の出来事、すなわち戦闘はこれなしには成り立たないにも関わらず、もっとも「つまらない」もの扱いでプロしか注目しないもの。「ミリオタ」と言われる人々も、兵器には着目してもロジスティックスのことはほとんど無視である。
しかしそれがいかに大事かは、湾岸戦争のあるエピソードからも伺い知ることが出来る。シュワルツコフが現地で真っ先に昇進させたのは、ロジスティックス担当だった。彼を中将に昇格させることで、最前線の少将たちを従わせたのだ。
そしてそれを軽視するとどうなるかは、今は亡き大日本帝国軍が証明している。彼らは圧倒的物量に負けたのではない。物流を軽視したことで、物流を破壊されて負けたのだ。
そして物流というのは、戦争があってもなくても存在する。元々軍事用語だった「ロジスティックス」がビジネスにおいても使われるようになったのはむしろ当然のことと言える。本書がミリタリー書であると同時にビジネス書としても有用なのはこのためだ。最近ビジネス書で「ランチェスター戦略」という言葉を目にするが、この戦略を取れるのは、ロジスティックスあってのことだ。ロジスティックス抜きにランチェスター戦略うんぬんというのは、寝言である。
ただし、軍事のロジスティックスと民事のロジスティックスには、決定的な違いが一つある。
物流の、方角である。
軍事のそれは、最前線への一方通行。本書でもコンテナは重要な役割を担うが、この一方通行の象徴が、空のコンテナの扱い。空のコンテナが、戦場--正確にはその近くの物流拠点--に一方的にたまるのだ。
もちろん民間では、そうは行かない。本書に何度も登場する「鉄の山」といい。民間人の目から見た軍事のロジスティックスというのは、ずいぶんとムリ・ムダ・ムラが多いものに見える。実際コンテナの利用など、民間の技術が軍事に転用されることが一番多いのもまたロジスティックスだ。そういった技術の逆スピンオフの実体も、本書の見所の一つだ。
Si vis pacem, para bellum -- 平和を望むなら、戦争に備えよ。
座右の銘らしいものを持たない私にとって、最も座右の銘に近いのがこの言葉だ。
そして、ロジスティックスとは para bellum そのものである。
備えあれば、憂いなし。
Dan the Pacifist
書いたように朝鮮水軍の通商破壊は朝鮮沿岸部に限られ、それも後半には封じこめられています。
>日本の国力がこの程度のところで破綻するとは当時の軍事官僚は誰もわからなかった
なんでこういうことを自信満々に断言できるのかよく分かりませんね。
兵站が限界に近いことは実際に実務をやってる当事者がわかっていないわけがない。なぜ、彼らの発言力が低かったのかといえば、戦闘部隊の高い発言力がそのまま、反映されてしまう組織の論理が原因であり。
どうして軍がそういう官僚組織の弊害たる組織の論理に溺れてしまったのかと言えば、統帥権干犯を主張して文民統制を外れてしまったというのが大きいでしょう。もっとも、日本の国力では、ふつうにやっても勝ち目がなかったのも現実ですが。
さらに南方資源の獲得、短期決戦短期講和を実施せざるを得なくなったのは官僚=能力の問題というより意志=政治(もっとも軍が政治に手を出した結果なのでで責任は免れない)の問題です。