角川書店第二編集部亀井様より献本御礼。

毎度のことながら素晴らしい。

世界同時不況の今にあっても、「人に言えない経済学」に関しての著者の一人勝ち状態はまだ続くようだ。

本書には、世界仰天ニュース的な興味本位の話題も数多く登場する。しかしそれだけ広い読みしても本書を読んだことにはならない。

あなたは、著者の愛を、本書から読み取ることが出来るだろうか?

本書「「夜のオンナ」の経済白書」は、右手にBRICS経済、左手に地下経済を持つ二刀流の著者の、左手最新作。ちなみに著者が左利きであることを、著書にサインしてもらった私は知っている。

目次 - 「夜のオンナ」の経済白書: 書籍: 門倉貴史 | 角川書店・角川グループより
はじめに
第1章 搾取される開発途上国の「夜のオンナ」たち
開発途上国の男性優位社会が売春を促す/タイの「夜のビジネス」はベトナム戦争の遺産/サイクロンの季節になるとミャンマーで売春婦が増える理由/東南アジア「セックス・ツーリズム」の仕組み/カリブの買春ツアーの主要目的地ドミニカ/美しすぎる売春婦には要注意/ベトナムのカラオケ店は売買春の温床/児童買春の問題が深刻化するフィリピン/わずか5万円で売られる脱北者の女性/中国の経済発展とチベットの売春ビジネスの関係/中国で建設計画が浮上したセックス・テーマパーク/インドの売春宿で「性の奴隷」にされるネパールの少女/スマトラ沖地震に乗じて救済を装った人身売買が横行/人身売買ビジネスは現代版の「奴隷貿易」/欧州最大の性奴隷供給国モルドバ/国際的な人身売買の中継地となるキプロス/旧ソ連からトルコに流入した「ナターシャ」/東欧諸国で売春が合法化された理由/チェコに登場した世界初の「ゼロ円売春宿」/コンドームの無償配布でHIV感染抑制に成功した国とは?
第2章 合法と規制の挟間で揺れる先進国の「夜のビジネス」
先進国の「夜のビジネス」の仕組み/米国デンバーで買春するとテレビで顔と名前が晒される/「ハリウッドマダム」のスキャンダル/エイズ対策担当調査官も顧客だった「DCマダム」/下半身スキャンダルで辞職したニューヨーク州知事/米国のアダルトビデオ市場は4222億円/米国のポルノ雑誌市場は1100億円まで縮小/ネットオークションに処女を出品、3億円の値が付いた女子大生/英国でブームの「ドッギング」とは?/合法化されたオランダの「夜のビジネス」はどうなったか?/売春宿が株式上場したオーストラリア/03年に売春を全面的に認めたニュージーランド/「夜のビジネス」への規制強化に乗り出した北欧諸国/ドイツでオープンした「セックス・アカデミー」とは?/シニア割引を適用する売春宿が登場
第3章 日本の「夜のオンナ」最新事情
締め出される「風俗案内所」/わいせつDVD販売に対する規制も強化/児童ポルノは所持するだけでも罰金の対象に/人身売買の「監視対象国」に指定された日本/未成年者売買春の場は、「出会い系」から一般的な「SNS」へ/無店舗型風俗の低価格競争/営業禁止地域でも性風俗店が営業できるカラクリ/お隣韓国では買春男性も摘発されるように
第4章 世界同時不況と「夜のオンナ」
金融危機が「夜のビジネス」を直撃。エコ割引も登場/カジノの収入減がセックス関連産業にも影響/スペインで増加するサブプライム売春婦/イタリアで増加する外国人売春婦/ポルトガルとギリシャでも外国人売春婦が急増/新型インフルエンザで売り上げが半減したメキシコの売春宿/日本の「夜のビジネス」にも世界不況の影響が及ぶ/ホステス→キャバクラ嬢→風俗嬢という玉突き現象/外国人女性が在籍する安価な店に客足がシフト/「裏ビデオボックス」の価格破壊/AV女優のギャラもジリ貧/風俗嬢の給料低下がホストクラブ業界にも波及
第5章 「セックス税」導入のススメ
「タバコ税」「酒税」のように「ゼックス税」を/「セックス依存症」という恐ろしい病気/『カリヴァ旅行記』でも登場した「セックス税」構想/売春合法化の是非/「セックス税」をすでに導入しているドイツのケルン市/1回5ドル。米国ネバダ州の「セックス税」導入案/日本で「セックス税」を導入すると94億円の税収増
おわりに

本書のオビには、

  • チェコに登場した世界初「0円フーゾク」の仕組み
  • 自転車歓迎!ドイツに登場した「エコ割フーゾク」
  • ネットオークションで3億円で落札された米国の「処女」
  • オーストラリアで株式上場を果たした売春宿の次なる野望
  • 「セックス税」を導入したドイツ・ケルン市の経済効果

といった、スケベオヤジの下世話な好奇心を刺激せずにはいられない話題が並んでいる。

これらのカラクリについても、本書はきちんと紹介しているのだけれど、しかし本書の主立った部分を占めるのは、世界の風俗嬢たちの窮状である。

P. 22
開発途上国は先進国と比べて「夜のビジネス」で働く女性の(女性人口全体に占める)割合が阿藤的に高い。そして様々な「夜のビジネス」の中でも、とくに世界最古の職業と呼ばれる売春で生計を立てる女性が多いという特徴がある。たとえば、各国統計をもとに女性人口1000人あたりの売春婦の数を計算すると、日本はわずかに0.38人にすぎないが、ドミニカ共和国では21.1人、タイでは59.7人にも達する。

タイでは、なんと女性17人に1人が売春婦ということになるのだ。

彼女達のほとんどは、好き好んで春をひさいでいるわけではない。強制的に、それも未成年のうちにそうさせられるものも少なくないことは、「いくつもの壁にぶつかりながら」にもあるとおりだ。

だからといって単純に「売春を撲滅せよ」とは言わないところに、著者の愛がある。搾取は悪でも、売春も糧を得る手段としては立派な職業。売春を取ったら何も残らない人も少なくないのだ。問題は、「売女の娘は売女になるしかない」ことにこそある。

著者はむしろ売春に市民権を与えた上で、売春婦達にも市民としての義務を与えることを提案している。その代表が最終章の「セックス税」だ。セックス税といっても恋人や夫婦の間のそれから取り立てるわけではない。あくまで「金銭を仲介としたセックス」で動く金銭に課税するというものだ。「そんなばなな」と言うなかれ。著者も指摘しているように、ケルン市の性交税は成功をおさめている。

P. 209
「夜のビジネス」に対する規制を強化すれば、決してなくならない需要は、非合法な手段によってしか満たされないということになる。そして、「夜のビジネス」が禁じられたビジネスになることによって、それは、マフィアや暴力団をはじめとする闇勢力の重要な収入源となっていく。実際、禁酒法時代、アルコール飲料が全面的に禁止された米国では、まさにそのようなことが起こったのである。

著者が日々考えているのは、こうした最も弱い立場におかれた人々の福祉なのだ。

物乞いを禁止するだけで、乞食たちが貧困から脱出できると思っている人はいないだろう。

売春も、そうではないのか?

ましてや売春は、ただもらうだけではなく、快楽を提供するのである。立派なサービス業として認めた上で、それに見あった課税をする方が社会のためにも、そして誰よりも彼女らのためにもなるのではないだろうか。

Dan the Erotic and Economic Animal