著者より献本御礼。

初出:2009.10.15

プロのための「生命保険入門」を、異業種から参入した著者が同書の著者から直接学び直した上で、ユーザー向けに最新事情を交えながら書き直したのが本書。生命保険を買う--あるいはあえて買わない--にあたって、本書は必携の一冊となるだろう。

ただ、一点だけどうしてもお尋ねしておきたい異議がある。本entryはよって書評兼公開質問状である。

本書「生命保険のカラクリ」は、ライフネット生命保険副社長である著者がはじめて書き下ろした生命保険本。

目次 - 新著の予約販売開始!: 生命保険 立ち上げ日誌より
第一章 生保のGNP − 義理・人情・プレゼント
祖母の思い出
花より団子、外食より保険
人生で二番目に大きな買い物
日本人の生保好きはいつから始まったか
世界一儲かる生保市場
罪深い「転換セールス」
逆ざやが残した禍根
払われなかった保険
第二章 煙に巻かれる消費者 − 誤解だらけのセイホ
スパゲッティのように複雑
貯金はできないけど保険なら払える
かけ捨ては損ではない
「何に備えるか」で整理すると三つしかない
定期、養老、終身の違い − 生命保険の基礎
「保険料はどこでも同じ」ではない
保険に「ボーナス」はない
「途中でやめたら損」とは限らない
医療保険は入ってはいけない?!
民間の生命保険がすべてではない
第三章 儲けのカラクリ − 生命保険会社の舞台裏
保険会社をゼロから作ったら
あなたが死ぬ確率は?
保険金詐欺との戦い
単品主義のススメ
私たちの保険料、28兆円のフロー
世界最高の投資家は保険屋
生保はリスクを取りすぎか
引きこもりのザ・セイホ
シサ、ヒサ、リサ − 保険会社の収益源
第四章 かしこい生保の選び方
はじまった地殻変動
宿敵、簡保の民営化
銀行窓販の全面解禁
生保が共済に敗れる日
来店型代理店の台頭
保険料の自由化と新規参入の促進
付加保険料開示の衝撃
生保業界の生きる道
保険にかしこく入るための七カ条
生保をさらに知るためのコラム集
  1. 生命保険契約者のセーフティネット
  2. 生命保険の約款
  3. 生命保険会社が倒産したら
  4. 保険料の決まり方
  5. 生保会社に値段をつける − バリュエーション
  6. 生保の未来 − リスク細分
  7. 民間医療ホケの将来
ネット生命保険の可能性 − あとがきにかえて

生命保険ほど、「愛ある金融商品」は他にはないだろう。保険金額が1,000万円だろうが1,000億円だろうが、かけた本人は一円も得ないのだ。そんな「本人には何の得にもならない」金融商品を、九割もの日本人が買っている。それも単に普及率だけではなく、一人当たりの保険金額も突出して大きい。本書によると、日本人の平均保険金額は、約1,600万円。アメリカの580万円、イギリスの260万円、ドイツの200万円とは文字通り桁が違う。「遺されたものへの愛」の大きさに関しては、日本人は世界一他愛的な国民といっても過言ではない。

それだけに、生命保険というのは「愛につけ込む」、同義的に最も罪深い商品ともなりうる。日本の生命保険のもう一つの特徴は、保険金あたりの保険料が高いこと。10年定期の掛け捨てで3,000万円を保険する場合、日本では優良体でも5,175円。それに対し米国では喫煙者の標準体でも4,944円、非喫煙の優良体では1,291円しかしない。

皮相的な言い方をすれば、日本人は世界一愛につけ込まれた国民とも言える。著者らが74年ぶりの独立系生保を立ち上げた理由が、まさにそこにある。

保険料を半額にすることで、安心して赤ちゃんを産める社会をつくりたい。

生命保険入門」の著者にして、本書の著者の上司でもある出口治明の言葉である。

だからこそ、著者らに問うておきたいことがある。

それは、加入者の細分化をどこまで進めるか、ということである。

先ほど「標準体」と「優良体」という言葉が出てきた。これは早い話、どれだけ死ににくいかということである。日本ではまだ「標準体」と「優良体」の差はさほどないが、見ての通り米国では四倍近い差が生じる。

加入者をカテゴライズするのは、別に生命保険の専売特許ではない。ご存知のとおり自動車保険では実に細かい等級分けをしている。事故りやすさで加入者を区別することを、加入者も受け入れているわけだ。事故れば等級が上がるし、事故がなければ等級が下がる。事故を防止するインセンティブが働くので、これは悪くない制度といえよう。

しかし生命保険に関しては、自己責任で選べるのは、喫煙と職種ぐらいである。男女差を含め、他のファクターは先天的なものばかりである。本人の努力しようがない点で保険料が変わることを、加入者はどの程度受け入れるべきなのだろうか。

近年は、さらに遺伝子検査というものがある。これを利用して加入者の等級付けをもっと細かくすることだって可能と言えば可能だ。あまりにリスキーな加入者をはじくのもさらに簡単になるだろう。

優良な加入者のために、優良になりえない加入者はどこまで譲るべきなのだろうか。

保険を成り立たせている最も重要な原則は、大数の法則である。不運な加入者も幸運な加入者もいて、保険ははじめて成り立つ。幸運な人だけでは保険に入る理由がないし、不運な人だけでは保険は成り立たないのだから。

遺伝子検査に関しては、すでに先手を打っている国もある。顧客を細分化したいというのもまた保険提供側のモラルハザードの一つである以上、それに制限を加えるのは当然のことでもあるが、逆に制限さえなければどこまでも顧客を細分化し、顧客の無知につけ込むのが保険会社というのも本書の悲しい指摘ではある。

著者は、どこまでの顧客細分化を望んでいるのか。

それを、知りたい。

Dan the Insured