集英社新書編集部より献本御礼。
著者は少し産まれるのが早かったかも知れない。
私ぐらいの年齢だったら、リアルとネットを取り持つ最高のアルファスポークスパーソンとなりえたのではないか。
本書「若き友人たちへ」は、ジャーナリスト筑紫哲也のラスト・メッセージ。
目次- 「まえがき」にかえて
- 若き友人への手紙
- 第1章 まず憲法について話してみよう
- 第2章 そもそも日本人とは何者か
- 第3章 二つの日本人論を読む
- 第4章 沖縄から日本が見えるか?
- 第5章 さまざまなメディアを歩いてみよう
- 第6章 雑誌と新聞をめぐる私的ジャーナリズム論
- 第7章 国家、この厄介なるもの
- 第8章 教育こそが国の基本である
- 第9章 「知の三角形」という考え方
- 第10章 この国がおかれている現実を見つめる
- 第11章 そして、この国の行方は…
- 「あとがき」にかえて
私は「朝日ジャーナル」の全盛期を知らない。よって「書き手」としての著者はほとんど知らないと言ってよい。私が知る著者は"News 23"を通したもので、その印象は「説教臭いおやじ」というものであった。
しかし、本書を読めば、著者が若者に媚びず、しかし年と名声をかさに着て若者を威圧せず、あくまで言葉で対等に勝負する、この時代に最も必要なtalent=才能であったことがよくわかる。長いが引用させていただこう。
若き友人への手紙 第二回「言葉」の話を欠きます--と書き始めながら、「語られざる言葉」で話を終えるわけには行きません。
実は、今月私が書こうと思っていたのは、流行語にロクなものがないとはいえ、なかでも世に現れたもののなかで最悪と思っているひとつの流行語のことでした。
KY
がそれです。
「空気が読めない」の略なんだそうです。
流行語のセンスがないのは今に始まったことではないのですが、なかでもひどいですね。頭文字を取った略称だと言うのなら、「空気が読める」だって可能です。
そんなことより何より気に入らないのは、この言葉の脅迫的なことです。 空気を読め、さもないとお前は時代遅れだぞ、仲間外れだぞ、とおどしている。そうでなくとも「命令型」でよかった日本語を「懇願型」の婉曲話法に変えていくほど心優しい若者たちが、この同調努力にどう耐えられるのだろうか--と私はまたお節介な心配をしています。
それどころか、この国の歴史のなかで、何を残し、何を捨ててもよいから、これだけはあなたたちが引き継いで欲しくはないと私が思い続けて来たもの、それが「KY」に凝縮している思考なのです。
言うまでもなく、この国の歴史のなかでの最大、最悪の国家的失敗(破滅)は、一九四五年八月十五日に決着しました。なんでそんなことになったのかを辿るとやはり「KY」に行き着くのです。その話をもっときちんとできる「手紙」を書かないといけませんね。
これが、著者の最後の手紙の、そのまた最後である。
この後に本書の第一章が来るが、これらは講義録をまとめたものであり、時系列で言うと前になる。
『若き友人たちへ──筑紫哲也ラスト・メッセージ』 | 集英社新書愛国主義は悪党の最後の隠れ家である。本書の中で筑紫さんが語る言葉の一つである。誰もが反対しづらい美辞麗句、思わず振り向いてしまう大きな声には注意が必要だ、という意味である。二〇〇三年から二〇〇八年にかけて、筑紫さんは早稲田大学と立命館大学で主に大学院生に向けた講座をもっていた。その中で再三伝えようとしたのは、情報や情緒に流されることなく自分の頭で考えることの素晴らしさであった。この一連の講義録をもとに、本書は構成された。「若き友人」を「日本人」と置き換えてもいい。筑紫哲也さんからの最後のメッセージである。
「空気を読むな、本を読め。」の著者として、本書の著者に同意してもしきれない。
「空気を読むな、本を読め。」はじめにはっきり言います。空気なんか読んでいたら確実にバカになります。
漢字で書くべきだったかも知れない。私はここでバカを二通りの意味で用いているからだ。一つは、現代日本語の「愚鈍」という意味で、そしてもう一つは、この言葉が成立したとされる故事の意味で。
馬鹿 - Wikipedia秦の2代皇帝・胡亥の時代に権力をふるった宦官・趙高が、あるとき皇帝に「これは馬でございます」と言って鹿を献じた。皇帝は驚いて「これは鹿ではないか?」と尋ねたが、群臣たちは趙高の権勢を恐れてみな皇帝に鹿を指して馬だと言った、という『史記』にある故事からくるとする説。
著者が存命中に一度話しておきたかった。「お話を伺いたかった」という表現はこの場合ふさわしくない。あって思う存分遠慮なく議論してみたかった。
それはもはやかなわない。しかし何を話したかったのかを、著者は本書に遺してくれた。
だからこそ、本を読むべきなのである。
もはや話すことがかなわぬ相手と、話すために。
今際の際の貴重な時間を、ありがとうございました。
Dan the Speaker for the Dead
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