原著は出てすぐ購入。日本語版は@freemiumjpよりPDF1万人「献本」キャンペーンにて入手御礼。

本書の期待の高さは、本blogで「ネットビジネスの終わり」で存在を紹介しただけに等しいにも関わらず今月のベスト1セラーであることからも疑いようがない。

予約を入れたみなさん、安心していい。本書は間違いなく来年から始まる10年代を生き抜くのに欠かせない一冊だ。フリーであれプレミアムを払って読むのであれ、今後は本書を読んでいることがエコノミック・アニマルとしての必要条件になる。

本書「フリー」は、無料とは単にN円からN円引きした価格、すなわち 0 != N -- N でないということを、すでに多くのエコノミック・ビーイングが実践している「各論」を交えながら、総論として一冊にまとめあげた一冊。

目次 -- 書籍『フリー』について | フリーミアム.jp [FREEMIUM.jp] クリス・アンダーソン著 『フリー <無料>からお金を生みだす新戦略』より
フリーコラム
  • どうして航空料金がタダになるのか?
  • どうしてDVRがタダになるのか?
  • どうして車がタダになるのか?
  • どうして医療ソフトウェアがタダになるのか?
  • どうして株式売買手数料がタダになるのか?
  • どうして講演会をオンラインでタダで配信しても、高額なチケットが売れるのか?
  • どうして電話番号案内がタダになるのか?
  • どうして銀食器がタダになるのか?
  • どうして音楽CDがタダになるのか?
  • どうして教科書がタダになるのか?
  • どうしてタダの自転車貸し出しが成功したのか?
  • どうして大学の授業がタダになるのか?
  • どうして数百万点の中古品をタダで提供できるのか?
プロローグ
第1章 フリーの誕生
無料とは何か?
第2章 「フリー」入門
-- 非常に誤解されている言葉の早わかり講座
第3章 フリーの歴史
-- ゼロ、ランチ、資本主義の敵
第4章 フリーの心理学
-- 気分はいいけど、よすぎないか?
デジタル世界のフリー
第5章 安すぎて気にならない
-- ウェブの教訓=毎年価格が半分になるものは、かならず無料になる
第6章 「情報はフリーになりたがる」
-- デジタル時代を定義づけた言葉の歴史
第7章 フリーと競争する
-- その方法を学ぶのにマイクロソフトは数十年かかったのに、ヤフーは数ヶ月ですんだ
第8章 非収益化
-- グーグルと二一世紀型経済モデルの誕生
第9章 新しいメディアのビジネスモデル
-- 無料メディア自体は新しくない。そのモデルがオンライン上のあらゆるものへと拡大していることが新しいのだ
第10章 無料経済はどのくらいの規模なのか?
-- 小さなものではない
無料経済とフリーの世界
第11章 ゼロの経済学
-- 一世紀前に一蹴された理論がデジタル経済の法則になったわけ
第12章 非貨幣経済
-- 金銭が支配しない場所では、何が支配するのか
第13章 (ときには)ムダもいい
-- 潤沢さの持つ可能性をとことんまで追究するためには、コントロールしないことだ
第14章 フリー・ワールド
-- 中国とブラジルは、フリーの最先端を進んでいる。そこから何が学べるだろうか?
第15章 潤沢さを想像する
-- SFや宗教から、〈ポスト稀少〉社会を考える
第16章 「お金を払わなければ価値のあるものは手に入らない」
-- その他、フリーに対する疑念あれこれ
結び -- 経済危機とフリー
巻末付録(1):無料のルール
-- 潤沢さに根ざした思考法の10原則
巻末付録(2):フリーミアムの戦術
巻末付録(3):フリーを利用した50のビジネスモデル
日本語版解説(小林弘人)

ゼロ円がただの「最安値」でないことは、およそ自ら商いをする者であれば誰でも体で知っている。

404 Blog Not Found:一円の壁 - 書評 - 週末起業サバイバル
P. 141
それでも3万円を稼いでいる方は自信をもってください。実は、一番大きな壁が「一円の壁」だからです。アンケートでも、フォーラム会員のうち58%、半分以上の方がまだ1円も稼いでいないと答えています。
そう。0と1の違いは、1と3万より大きいのだ。

しかしほとんどの商人は、「お金を頂くとは大変なことなのだ」という自戒で終わってしまっている。その代表例が、マイクロソフトだ。 Bill Gates のドクトリンは、「我々は大変なことをしたのだから、その代価を支払うべきだ」という、古き良き「商人道」に立脚している。目次にもある通り、同社は本書の事例としても登場する。

今までは、それでよかった。

しかし、今後は「お金を無理に頂くともっと大変になる」というのが商売の常識となる。ゼロ円は「仕方なく」受け入れるものではなく、積極的に行使すべき価格となるのだ。

その著者の主張の根底をなすのが、「アトム」(atom)と「ビット」(bit)という言葉。アトムは経済における物理を、そしてビットは経済における心理をさす。実は私は本blogでも拙著でも、「経済=物理+心理」という主張を繰り返し行っている。最新の「働かざるもの、飢えるべからず。」では、章の一つをまるまるこの話題にあてている。同時発売なので一緒に入手していただけると幸いである。

そして今後の経済は、いかにアトムを節約し、ビットを「浪費」するのかで決まるのだ。

それが、本書の「総論」であるが、本書が理論書にとどまらない実践書であるのは、「フリー」の活用事例をこれでもかと取り上げているからだ。「読んだその場で役立てたい」という人は、本文を飛ばしてコラムを読むこと。それだけで本書の元は「取れる」

折角なので私も一つ披露しよう。本blogのエコシステム、ではない。確かに私は「タダ」で月々30-40万円相当の本を献本され、それ以上の売上げを読者から「タダ」、すなわち読者に対して一切請求している形で得ているが、どうしてそうなったかは「空気を読むな、本を読め。」を参照いただきたい。ここでお話するのは、「本当の自転車置場論議」だ。

私はマンションの理事を三期に渡ってつとめていた。ITギークにとっての自転車置場論議とは、どうでもいいようなことほど議論が紛糾してしまうことを指すが、都市部のマンションにとって、それは日本における高速道路無料化の是非に匹敵する重要な問題である。足りない、狭い、混雑しているというところも似ている。

この問題を解決するあたって私が活用したのが、まさに「フリー」である。我々はレンタサイクルを無料とし、しかも最新の電動自転車を揃えるという措置をとった。レンタサイクルというシステムそのものは入居時から存在したが、レンタル料を徴収していた上、台数も少なくそして各自転車はただのママチャリで魅力に欠けるものだった。

今では二十台の電動自転車が住民には無料で貸し出され、不法駐車であふれていた自転車置き場には空きさえ出ている。もし自転車置場を拡充するとなったらどれほどのコストが生じたか、考えるのも痛いではないか。

駐車場という、都市部のマンションにおいては管理組合の収益の半分を稼ぎ出す「プロフィットセンター」とは異なり、自転車置場というのは、どうあがいてもコストセンターである。それであれば、そこでプロフィットを上げるのではなく、いかにコスト=アトムを減らすかという考えに至るのは自然である。そしてその時、フリーは絶大な力を発揮する。

これはフリーの力のほんのささいな一例である。そしてフリーほど、「思い立ったが吉日」な概念というのもないのだ。フリー(gratis)の力は誰もがフリー(libre)に使えるのだ。

フリー(Free)の力は、我々をフリー(Free)にする。それがわからない人は、いつまでたってもアトムの奴隷なのだ。

Dan the Free Writer

追記:本書自体が、「無料で先着一万人にPDFを配る」という本書の主張を忠実に実行したのは素晴らしい。本entryもその恩恵を受けている。英語版は今でも英米ではフリーで読めるのであるが、「ロケーションフリー」ではなく、日本では読めない措置を施されているのが残念である。