著者より献本御礼。

はじめにお断りしておくと、本書には新しいことは何も書いていない。本書もまた星の数ほどある「金融リテラシー本」の一つである。

しかしそれがコンスタントに売れているということは、その「新しくもない」ことがわかっていない人が、星屑の数ほどいることを示している。そういう人々にとって、本書はもっとも「けれんみのない」一冊だ。勝間和代を目指すにしろ目指さないにしろ。本書程度の術はもっていたいものである。

さもなければ、あなたがお金を使うのではなく、あなたがお金に使われることになるのだから。

本書「60歳までに1億円をつくる術」は、実はお金をつくる術ではなく、お金に使われない術である。

目次
序章 「今の自由」を手に入れるために
第1章 お金の基本原則を押さえる
第2章 収入を増やす
第3章 支出を減らす
第4章 それでも投資は必要
第5章 お金を増やす

著者も序章で述べているとおり、本書の目的は「60歳までに1億円をつくる」ことではない。

「60歳までに1億円」は必要か、考えたことありますか? - SHINOBY'S WORLD
タイトルには「1億円」という文字がありますが、これは自分に必要な金額を象徴的に示した金額と思ってください。書籍の後半で1億円をつくるためにいくら必要かを年代別に示していますが、まず知るべきことは、自分にいくら必要なのか、です。

そう、必要な時に、必要な額を、どのようにしてつくるのかというのが本書の主題である。もし60歳に本当に1億円必要だとしたら、それは多すぎだと私も感じる。しかしそれでは具体的にいくらあればいいのかを即答できる人はどれくらいいるのだろうか。

今の私は、こう弾言できる。

ゼロ円です、と。

なぜか?

理由は二つある。

一つは、私がすでにこの術を身につけているからだ。金がなければ作ればいい。そして作るのはそんなに難しくない。使うことにくらべたらずっと簡単だ。本blogをはじめあちこちでさんざん言ってきたことなのでここでは繰り返さない。まとまったものなら「弾言」がある。iPhone版なら決弾」とあわせて買っても本書の値段でおつりが来る。

私はまた、この術を少しも大した術だとは思っていない。むしろくだらない術とすら思っている。だから「働かざるもの、飢えるべからず。」を書いた。60歳までに1億円が必要な社会は、そこで私が描いた社会とは対極にある。だから私は20年後、60歳になったときに著者にはこういってやりたいのだ、「あのころあなたはずいぶんと骨折りな本を書いていましたね」、と。

そう、骨折り。骨折がどう直るかご存知だろうか。

いきなり骨ができるのではないのだ。

404 Blog Not Found:仁から算へ、軟骨から骨へ (書評 - 自分の骨のこと知ってますか)
問題は、骨折が起きたときだ。ここで取り上げた「自分の骨のこと知ってますか」によれば、骨折の治癒は以下のとおり進行する。まず骨折した箇所から出血し、それが血栓になる。この血栓が、そこにいる細胞を死滅させる。次に、造軟骨細胞がやってきて、血栓が軟骨に置き換わる。そして最後に造骨細胞がやってきて軟骨を置き換える。

本書は、その意味で本当の意味での骨太(robust)社会に至る前に必要な、軟骨のような一冊なのである。

本書は、いずれ必要なくなることが望ましい。もし今から20年後に本書の知識が誰にとっても必須なのだとしたら、それは世の中が今後の20年で進歩していなかったということだ。

だからこそ、今は本書のような本が必要なのだ。

軟骨として。

足場として。

足場なしにおよそまともな建物を築くことは出来ない。完成したら不要になるからといって足場を作らずにすませる方法はもしかしたらあるのかも知れない。しかし今我々が知っているは、それが一番安上がりなやりかただということだ。

本書は、そうやって使って欲しい。

それが、著者の願いでもあるはずだ。

:Si vis pacem, para bellum.

Dan the Scaffolder