筑摩書房松本氏より定期便にて献本御礼。

[内閣府世論調査]死刑容認が85.6%で過去最高に - livedoor ニュース
内閣府は6日、死刑制度に関する世論調査の結果を発表した。死刑を容認する回答は85.6%と過去最高に上り、廃止論は5.7%にとどまった。被害者・家族の気持ちがおさまらないとの理由が前回調査より増えており、被害感情を考慮した厳罰論が高まっていることが背景にあるとみられる。

そう答えた85.6%は、本書を読む義務がある。

民主国家における死刑というのは、結局のところ我々が、そう、他ならぬ我々が死刑囚を殺すということなのだから。

本書「死刑と無期懲役」は、刑務官としてまさに死刑と無期懲役の現場にいた著者による、死刑と無期懲役の実態をつまびらかにした一冊。以前にも「元刑務官が明かす死刑の全て」を紹介したが、情が強すぎて筆がスリップした感が強かった同著より、本書は格段に読みやすくそして役に立つ一冊に仕上がっている。

目次 - 松本氏のmailより
序 章 拘置所と刑務所
被害者と加害者の最期 / 刑務所の種類と拘置所 / 刑務所と拘置所のルーツ / かつての死刑
第一部 死刑
第一章 死刑はこうして執行される
死刑執行の前夜 / 死刑執行の担当部署 / 現場の指揮監督者として / 執行命令 / 死刑囚の舎房 / 集団処遇と所長面接 / 特別配置につけ / 刑場への連行 / 事態の収拾に幹部は不用 / 予想外の死刑執行 / 失敗の理由 / 「残念だがお別れだ」 / 死へのセレモニー / 「被害者の方たちの魂をお救いください」 / 遺体の取り扱いと遺族への連絡 / 遺書の重さ / 遺骨の引き取りを希望した遺族
第二章 死刑囚の生活
死刑囚処遇の基本 / 死刑囚になった日 / 死刑囚の日常 / 情操教育・教化教育の実態 / ほとんどの死刑囚が受けている宗教教誨 / 事実上はテレビだけというレクリエーション / 逃がさず殺さず狂わさず
第三章 死刑執行というメッセージ
凶悪犯罪への抑止力 / 死刑執行再開のきっかけになった事件 / 一九九七年八月一日の死刑執行 / それぞれの事件 / 永山死刑囚の死刑を執行させた神戸連続児童殺傷事件
第二部 無期懲役と終身刑
第四章 無期懲役囚を取り巻く状況
社会復帰させることが原則の無期懲役刑 / 新法の落とし穴 / 乱れる規律 / 仮釈放が絶たれた無期懲役囚の心境 / 現場の刑務官の本音 / 無責任な厳罰化論議と長期服役者の現状 / 無期懲役囚の激増と仮釈放の激減
第五章 無期懲役囚の処遇
収容人員の割合 / 無期懲役囚の日常 / 吹き溜まりの四区 / 初めて出会った無期懲役囚 / キムの出所 / 冤罪と死刑を吸収する無期懲役判決 / 黒羽刑務所宇都宮支所での菅家さん / 千葉刑務所というところ / 刑務官も同僚受刑者も冤罪を信じていた
第六章 終身刑導入の問題
死刑制度を残し終身刑が導入されるとどうなるか / 戦前、戦中、戦後を知る元刑務官 / 先輩刑務官の考える死刑 / 死刑の犯罪抑止力 / 「この手に伝わった温もりが不憫でね」 / いまの刑務所で終身刑受刑者の処遇はできない / 最も手数と税金がかかる終身刑処遇
第三部 冤罪
第七章 冤罪で服役する受刑者
不条理 / アリバイがあったのにいえなかった男 / 人の記憶は当てにならないものなのに / 娘の非行に心を痛め脱獄を企てた受刑者
第八章 地獄に落とされた冤罪死刑囚の苦悩
でっち上げられた暴行殺人 / 生還した免田栄さん / 無念の獄死 / 拘禁症 / 「唯一の物証」の信用度 / 再審への幾重もの壁
第九章 冤罪はなぜ起こるか
冤罪は人がつくる。 / 取調べと自白 / 代用監獄 / 検察官は優秀だが… / 裁判官の判断力 / 名古屋刑務所保護房死傷事件の真実
第一〇章 冤罪をなくす努力
刑務官の思い / 司法解剖の現場から / 取調べの可視化は逆に冤罪を生むことも / 取調べの可視化は捜査の革命になる / 絶対に必要な人事交流 / 裁判員制度で裁判官が変わることを期待する
第四部 人間は変われる
第一一章 死刑台からのメッセージ
宅間守の早期死刑執行は残念だった / きれいになって死にたい / 懺悔録 / 難問 / ただならぬ関係 / 彼女の運命を狂わせた事件 / 時効になっている事件も償いたい / 来所 / できることなら何でも… / 死刑台からのメッセージ / 最後の面接
第一二章 矯正教育
刑務所の命の教育 / 少年院の心理療法 / 内観 / ロールレタリング(役割交換書簡法) / SST(社会適応訓練) / 刑務所ではうまくいくのか!?
あとがき

著者の主張は、最後にまとめられている。

私は、死刑制度はあってもいいと思うが、見せしめ的・厄介払い的な執行には反対だ。その持論の底にあるのは"人は変われる"ということである。

しかし実際には見せしめ的・厄介払い的な執行というのが本書の指摘であり、本来は主であるはずの民が丸投げした--プロであるはずの法務省でさえ目を背けている--懲役囚たちの処遇を、刑務官たちがなんとかしのいでいるというのが現状であり、本書は「このままでは持たない」という現場からの悲鳴、もしくは「内部告発」でもある。

それを理解してもなお、著者の主張にはそのまま賛同できない。

順序を、違えていると感じるからだ。

404 Blog Not Found:News - 元少年に死刑判決 - 死刑の是非の前に問いたい是非
  1. 人々が殺された場合の後始末をする
    1. 加害者を処罰する
    2. 被害者に補償する
この2.2.の観点が、日本ではほとんど無視されてきた。

「人は変われる。そのための現場が刑務所である」という著者の主張はもっともだが、だとしたら、もはや変わることすら許されない殺人の被害者はどうなるのだ、ということにもなる。殺した方は血税で「変えてもらえる」のに、殺された方には何もないでは、極端な話「人を殺せば国費で教育を受けられる」というメッセージになりはしないか。

刑務所に1人(一年)いれておくのにどのくらい費用がかかっているのでしょうか? 単純な一人当たりの総費用を割ったものだけでなく、限界費用的な試算もあったら教えてく.. - 人力検索はてな
結論から書きますと、収容人員一人当たりの1年間にかかる「刑務所に囚人を入れておくための費用」は、55.1万円です。

これと同様の数字は本書にも登場する。総額では550億円。これに対し、被害者救済のために投じられた金額はこの50分の1である。

404 Blog Not Found:刑の前に考えておくべきこと
支給額を見ると、さらに開いた口がふさがらなくなる。11億円というのは確かに5億7千万よりは増えているが、一件あたりの支給額は300万円を切っているのだ。

もちろん、方や全囚人、方や殺人被害者の遺族であり同列に比較するのは困難であるが、加害者を罰するために投じられる血税が、被害者を癒すために投じられる血税より桁違いに多いことは確かであろう。

[内閣府世論調査]死刑容認が85.6%で過去最高に - livedoor ニュース
死刑を容認する理由(複数回答)は「死刑を廃止すれば被害を受けた人や家族の気持ちがおさまらない」が54.1%で前回比3.4ポイント増。「命をもって償うべきだ」(53.2%)、「死刑を廃止すれば凶悪犯罪が増える」(51.5%)はそれぞれ微減だった。

裏を返せば、被害者さえきちんと救済できるのであれば、死刑は不要になるかも知れないことをこの数字は示している。そちらが先なのだ。

404 Blog Not Found:刑の前に考えておくべきこと
被害の救済もせず、加害の制裁もしないというのでは、社会に「私刑権」を預託する意味はなくなってしまう。しかしこの点を論ずる際に、加害の制裁ばかりに目がいくのはなぜなのだろうか。

この気持ちは、本書を読了してむしろ強くなった。刑務所の負担を軽くしたかったら、被害者の負担を軽くする必要がある。長らく現場にいた著者にその視点を求めるのは酷かもしれないが、「人は変われる」のであれば社会だって変われるのではないか。

これだけは確かであろう。

娑婆が変わらなきゃ、刑務所は変わらない。

Dan the Taxpayer

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