出版社より献本御礼。

これだ、この視点だ!

今までありそうでなくて、気がついてしまえば簡単で誰でも出来る、「これまでのビジネス書の常識を超えたオリジナリティのある、役に立つ提案」(P.008)は。本書の提案の応用範囲の広さは、これまで著されたビジネス書の中で最大かもしれない。

片付けるべき仕事がある人すべて必読。そして、それ以前にどこから仕事に手をつけていいかわからず途方にくれている、壁にぶちあたっている人も。

著者の出世作「渋滞学が「特殊相対論」だとしたら、本書「シゴトの渋滞、解消します!」は、「一般相対論」に相当する。前書は道路渋滞という数ある世の中の問題の一つを説いている過ぎないが、本書はあらゆる問題に適用可能だ。

目次
  1. 個人の渋滞、解消します!
  2. 部内の渋滞、解消します!
  3. 社内の渋滞、解消します!

いや、上のたとえは不適切かも知れない。相対論を学んだことがある人であれば、一般相対論が特殊相対論と比べて格段に難しいことを知っているだろう。よくある「中学生でもわかる」などと銘打った相対論本はたいてい特殊相対論までしか扱っていない。

しかしありがたいことに、こと渋滞学に関しては「特殊渋滞学」より「一般渋滞学」の方が格段に理解しやすいのだ。

ポイントは、ただ一つ。

仕事を「成果」ではなく「流れ」として捉える。

たったこれだけ。

さすれば、「成果が出ない」のは「仕事が渋滞している」からだと解釈される。そして「成果を出す」のではなく「流れを滞らせない」ようにすれば、ふんばらなくとも成果が勝手に流れ出てくる。

では具体的に、仕事の渋滞を解消するにはどうしたらよいか。

それが、「仕事の車間距離」を開けること。ぶっちゃけて言えば本気を出さない。

「自分の力を最大限発揮」するというのは、流れを引き戻してしまうのだ。

その実例としてボブスレーが登場する。コンマ0.01秒を争うこの競技において、スタートダッシュで選手が本気を出すと二秒もの遅れが生じるそうだ。二秒速いのではない。遅いのである。なぜそうなってしまうかというと、本気で橇を押すとかえって橇を引っ張ってしまうのだ。

あなたのまわりでも、いやあなた自身にもそんなことはないだろうか。本気でがんばったら、それでかえって仕事全体の足をひっぱってしまったことが。

ムリ・ムダ・ムラとよく言う。この三つの並び順として一番多いのがこれで、おそらくこれが口の中の渋滞が一番少なくなるからこうなったのだと思われるが、渋滞学的にはこれはムラ・ムリ・ムダでなければならない。ムラを解消しようとしてムリをして、それがムダになるのだから。渋滞はムラがムリになるところで起きるのだか、ここで適切な「車間距離」ととっていれば、ムリに転じない。

仕事が上手な人を見回してみると、そして自分自身を振り返ってみても、「できる人」というのは能力が卓越しているというよりは、「流れに乗る」のが上手な場合が多く、その様子をつぶさに観察してみると、タスクとタスクの間に必ずギャップを設けている。何に対してどれほど間隔を置くかは違うが、重要なのは、その間隔がムラを吸収するのに充分であることなのだ。

ここまでは本書の「役立つ」側面だが、おそらく読者が最も「面白い」と感じるのはSection 3に登場する著者の遍歴ではないか。院生時代「ホームレス」になったあげく、銭湯が高すぎて洗濯機を風呂代わりにしていたとか。顔面神経麻痺で「オレ、マブタ、手動開閉かよ!」とか。

これ、本書の主題からすると「ムダ」のように思えるが、これこそが仕事の車間距離。ただでさえ簡単な本書の主張が、これでぐっと身近になった。本書のスタイルそのものが、渋滞学の応用にもなっている。

【書評】シゴトの渋滞、解消します! 結果がついてくる絶対法則 // CIOを目指しつつの8makiのアレ
普段からライフハックやら啓蒙本やら読んでる人には物足りないかも。

そういう人は読感距離が足りない。そしてそういう人に限って読んだことをきちんと応用せず、そして応用できない理由を多忙のせいにしていたりするものなのだ。

急がば、回るな。急がば、開けろ。

この智慧には少なく見積もって12兆円の価値がある。算定根拠は本書で確認して欲しい。これが1470円とは安すぎる。高速道路に乗る回数を一回減らしてでも読んで欲しい。きちんと読感距離を保って。

Dan the Jamm(ed|ing)