光文社新書編集部より献本御礼。

書名は「釣り」だが「嘘」でも「誇大広告」でもない。安心して、いや信頼してつられて欲しい

「インフレターゲットのすすめ」本は少なくないが、やっとおすすめできる一冊が出来たようだ。

理由は三つある。

本書「日本経済復活 一番かんたんな方法」は、前述のとおり「インフレターゲットのすすめ」。同様の主張は数多の本も経済学者たちのblogもしているが、本書を薦める三つの理由を述べる前に、まず「なぜそれが一番かんたんな方法」なのかを述べておくことにする。

目次
はじめに
第1章「失い続ける日本」の課題--閉塞感を打破するために
【コラム】GDPって何?
第2章 デフレは百害あって一利なし--実力を発揮できない日本経済
【コラム】フィリップス曲線は消滅したか?
第3章 正しい金融政策を実行せよ --デフレ脱却のポイント
【コラム】勝間的・脱デフレのための「5つの提言」 
編集後記 荻上チキ
勝間・宮崎・飯田の推薦本

まずインフレターゲットに効果があるかはあえて疑問視せず、それに効果があるとして実施コストを考えてみよう。

実質ゼロ、である。

金融当局が、通貨を実体経済以上に増やすと宣言し、それを実行するだけでよいのだから。

他の施策では、こうは行かない。公共事業を増やすためには、議員を説得した上に財源を確保しなければならない。「財政の健全化」を狙って増税ともなれば、消費税であれ相続税であれ、説得しなければならない人の数はさらに増える。

で、はたしてインフレターゲットに効果はあるのか?むしろ逆効果になるのではないか?それは本書で確認していただくとして、約束通り三つの理由を述べることにしよう。

1. 「インフレターゲットさえ設定すれば日本経済が復活する」とは言っていないこと

共著者の飯田が「必要条件と十分条件の区別がない人が多すぎの嘆くように、本書はインフレターゲットはあくまで必要条件の一つであって十分条件ではないことをきちんと指摘している。お金が増え、そしてここが重要なのだが、「お金をお金のまま持っていたら目減りする」と人々が感じてはじめて経済復活の足がかりが出来るのだから。

2. インフレターゲットが「直感に反する」ことをきちんと指摘していること

ものを買う立場からすれば、値段は高くなるより安くなる方がうれしいに決まっている。500円の牛丼が250円になってうれしいのはワープアもミリオネアも同様だ。専業主(婦|夫)の目線からデフレの脅威を見抜くのは容易なことではない。

デフレの脅威は、自分が買われる立場になってはじめて実感できる。買われないものは買えず、ましてや変われない。今は買われる者も、明日買われるかわからないのであればどうしたって明日にそなえて貯金してしまう。そして貯金を持つものは引きこもってしまう。これで経済が回るわけがないのだが、そうと頭はわかっていても体は250円の牛丼を歓迎してしまうのだ。

3. デフレで得をしているのは誰かをきちんと指摘していること。

デフレで得をするのは誰か。

金も地位も技能も持つものである。

これの実例として私が引き出されているのがこそばゆいが、これは本書でも引用されているとおり、私がそのことをすでに。

として公言していることもある。それだけじゃ申し訳ないというわけではないだろうが、飯田も「実は私もデフレで得する立場」と告白している。本書はその意味において「反ポジショントーク」の書でもあるのだ。

いずれにせよ、このまま行けばどうなるか。

カツマーは過労死し、カヤマーは餓死する。

その一方で、勝間も香山も安泰なのだ。むしろ彼らが苦しめば苦しむほど、彼らはそれぞれのアイドルにより強くすがり、より多くのお布施をする羽目になるのだから。

共著者である勝間は、本書でそれをきちんと認めている。この点、まさにこの一点において、香山よりも勝間の方が誠実であるのではないか。

正直、インフレターゲットというのは必要条件としては弱いと、ハイパーデフレのサヴァイヴァーである私は感ぜずにはいられない。そう。デフレでなくてハイパーデフレ。数十万円だったパソコンが十万円を切り、数万円だったソフトがゼロ円になるITの世界というのはまさにハイパーデフレの権化であり、デフレの震源でもある。こういっては何だが、全世界的なインフレ傾向に対してインフレターゲットは蟷螂の斧ではないかというのが率直な感想ではある。

しかし、それで救われる人は確かにいるのだ。たとえその人々のほとんどがそれに救われたと実感できないにしても。

そして前述のとおり、導入コストはあらゆる施策の中で最も安いのだ。

まずはやってみるべきではないか。

Dan the Economic Animal