双方とも献本御礼。

うち、「角川本」こと「クラウド時代と<クール革命>」の方は、3月10日まで限定で無料全文公開している。どちらもタイトルどおり、日本について書かれた本だ。

圧倒的に視野が広く、そして正しく「メガトレンド」を見抜いているのは「角川本」の方。日本と世界の「こうなる」を知りたかったら、こちら。

にも関わらず、日本人は「こうするべし」に関しては、「田原-宋対談」こと「中国人の金儲け、日本人の金儲け ここが大違い!」の方がはるかに実践的かつ理想的。

その違いは、「日本」の扱いにある。

クラウド時代と<クール革命>」は、日本で一番「プロシューマーの話がわかる」メディアコングロマリット、角川グループHDを率いるCEOが日本と世界について、そして「中国人の金儲け、日本人の金儲け ここが大違い!」は、裸一貫で日本でIT企業を築いた中国人が、日本人と華僑=世界人について著した本である。

前者が日本をリードするメディア企業であることは、本書をひもとくまでもなくわかる。同社は日本で最初にYouTubeをはじめとするソーシャルメディアを受け入れた会社の一つであり、そして今なお日本で最も積極的にその流れを活用している会社である。その流れが現在進行形であることは、

というニュースからぴりぴりと伝わってくる。

そんな会社を率いる著者は、いや、そんな著者に率いられる同社は、まるで著者が操縦するモビルスーツである。「同業他社の三倍速い」その動きを見れば、著者が「ニュータイプ」であることは疑いようがない。ニュータイプというのは同社(の子会社)にある雑誌の名前でもあるが、ガンダムの世界においては「時代の申し子」を意味する。本書に最初に登場するのがお台場ガンダムだというのは実に象徴的だ。

話を宇宙世紀ではなく21世紀に戻すと、我々の時代に置けるニュータイプは、「敵味方」を問わず、自分の頭で考えるにとどまらず、それを自らの口で語ることをよしとする。この口調がまずもって素晴らしい。

P. 67
 そこでインフォシス・テクノロジーズを訪ねる。そして24時間いつでも全世界のサプライ・チェーンの重要人物とバーチャル会議ができる巨大なスクリーンをもつテレビ会議室に案内され、直感する。彼は帰国してそれを妻だけにこっそり伝えた。
 「世界は平(フラット)なんだ」
 彼の名はトーマス・フリードマン。大著『フラット化する世界 『経済の大転換と人間の未来』」上下巻(伏見威蕃訳、日本経済新聞社、2006語月)は世界的ベストセラーとなった。

こんなに華麗にセクシーに読書遍歴を披露できるCEOが、どれほどいるだろうか。著者がAmazonアフィリエイトでなくて私は正直ほっとしているぐらいだ。本書は著者の読書体験を読むだけで価値がある。一流の人は、読書も一流であることがこれほど伝わる本は滅多にない。

著者は本を左手に、そして角川グループを実地で引っ張って来た実体験を右手に、縦横無尽に持論を展開する。この著者、サイコミュ入ってる。

なのに、

なのに、

なのに。

最終章でこうやらかしてしまうのである。

P. 185
ある日、月並みの国から、グーグルやアップル、そしてアマゾンまで引き上げたらどんな自体に陥るのだろう。
P. 202
日の丸クラウド「東雲(しののめ)」の必要性

なんだんだ、このジオングの足は!

この食料安保論ならぬIT安保論が、本書の価値を失速させている。

安保のための自給というのはどれほどのナンセンスかは、「「食糧危機」をあおってはいけない」を読めば著者のようなニュータイプにわからぬわけがない。いや同書をひも解かずとも、アルミ精錬の例を上げれば十分だろう。現在日本ではアルミニウムを精錬していない。技術がないからではない、資源が輸入できないからでもない。電気代が高すぎるからだ。だからといって我々がアルミ不足で困っているかと言えば全くそんなことはない。電気代が安い国からアルミを欲しいだけ変えるからだ。アルミがクラウドに変わっても、この事実はほぼそのまま通用する。「グーグルやアップル、そしてアマゾンまで引き上げる」事態というのは、近い将来--少なくとも本書が構想する程度の明日--にはありえない。

なぜなら、日本には日の丸ファイアウォールがないからだ。

中国には、ある。だからグーグルが撤退をちらつかせているし、Amazonは自ら進出する代わりにjoyo.comを買収してamazon.cnを名乗らせているし、アップルは中国を工場と見なしても市場とは(まだ)見なしていない。

光の速度が有限で、そして地球がそれをユーザーに感じさせる程度には大きい以上、日本にもデータセンターを置く必要は確かにある。しかし「今さら聞けないクラウドの常識・非常識」あるように、図体ばかりでかいのろまな日本の大手IT企業からわざわざ高くてしょぼいクラウドを「ニュータイプ」が買うことを期待するのは、シャア専用ザクレロよりありえない。GoogleだろうがAmazonだろうが、あるいはlivedoorやさくらが今後出すクラウドサービスだろうが、いちばん合うものを選ぶに決まっている。EC2やGAEを使ったら売国奴なんて、ネトウヨすら言わない。なにしろ彼らのお気に入りの2chは日本にはないのだから。

今、売国奴という言葉が出た。

これは今まで「究極の裏切り者」を意味していた。確かに「自分たちのもの」と思っていた国土が「よそ物」になるのは、「ニュータイプ」ですら愉快な体験ではないだろう。それは国土というものが「弾言」で言うところの「モノ」、「フリー」の言うところのAtomだからだ。売ったらなくなってしまうのであれば、かけがえのないものを売る訳に行かないだろう。

しかし、もしそれが売っても減らないものだったら?

マリオもハルヒも、減らないではないか。

それどころか、売れば売るほど創った者の価値は高まる。

「弾言」のヒト、「フリー」のbitsに関しては、売国奴こそが愛国者なのだ。

だから、角川歴彦CEOの役割は、日本一の売国奴となることなのである。

「日本」などという足なんて飾りです!!

あなたの役目は、偉い人にそれをわからせることなのです。

それが出来なければ、せめて偉い人に何もさせないこと。

東雲はしゃれた名前ですけど、偉い人が音頭をとらなくても必要とあれば若い連中が勝手に作ってくれます。一字違いの東方を彼らが勝手に作ったように。

それでは、勝手にやる立場にある若い連中、そう、シャアや角川CEOのような「早く産まれすぎたニュータイプ」ではなく、アムロより若い「ニュータイプ世代」はどうればいいか。

ここでやっと我が朋友、宋文洲の登場である。

オビより
私は、現在の日本人に「大」へのこだわりを捨て去り、その先にある価値を見いだしてほしいと考えています。私は「大」の苦い汁を飲んだ経験のある者だけが「大」のマイナスを知り、「大」への反省を始めることができると信じています。だからこそ、日本人たちはもっとも「大」の先にある価値を考えることが必要であり、アジアでもっとも早くその価値を見つけることができる立場にあり、そして見つける責任を持つと考えるのです。

大の先にある小。それは一体なんだろうか。

それは、あなたであり、私である。

個、である。

それも米国人や中国人のような、孤立した、あるいは血族ぐらいしか頼れるものがない孤立した個ではなく、必要な時に、必要なだけ、必要な人に頼り、そして頼られる共立した個、である。

そういう個にとって、会社だの国だのといった、器=vehicleごと乗員を巻き添えにするような「大」船=vehicleはむしろうざくわずらわしいものである。彼らは「日の丸iTunes Storeマダー」なんてことは言わない。「iBooksは日本では使えないのか」とは言っても。

「日本人」から「人」を取ると、「日本」が残る。

「日本人」から「日本」を取ると、「人」が残る。

私としては、日本がこのせんせいきのこる、もといこの先生き残るかどうかは、JALが生き残るかどうか程度の興味すらない。実際JALは逝ったが、私のマイルは生き残った。

JALが逝って困らないなら、日本が逝っても本当に困るのか?

私を本当に悩ませている疑問は、ただ一つ。

君は、生き残ることができるか。

Dan the MAN