携書(新書)版はディスカヴァーより献本御礼。電子版も昨日入手。
電子版発売の初日は大混乱だったのだが、やっと落ち着いた模様。どちらでもいいので必ず読んでおくこと。今後本に関する話をする時に、本書を読了していることが大前提となる一冊、あるいは一点なのだから。
正直、電子書籍において著者よりも肌身で知っている(とあえて弾言する)私から見ると、細部は甘すぎる。しかしそれ以上に前提、すなわち「電子書籍が今年から一般化する」には同意であるし、そしてそれ以上に展望--実は願望--に同感する。
本書「電子書籍の衝撃」がもし五百年前に書かれていたら、「活版印刷の衝撃」となるだろう。それくらいの衝撃が書籍の電子化にはあると著者は見なしており、そしてその点には私は完全に同意する。
目次(完全版) - mailより
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なぜそうなのか(why so?)、そしてそれがどのようになっていくのか(how so?)の二点に関しては本書をお読みいただくとして、以下の前提、著者の言うところの「電子ブックの円環」が完結しつつあることは、書籍の担い手であれば誰もが同意するところだろう。
P. 5第一に、電子ブックを読むのに適した機器(デバイス)が普及してくること。
第二に、本を購入し、読むための最適化されたプラットフォームが出現してくること。
第三に、有名作家か無名のアマチュアかという属性がはぎとられ、本がフラット化していくこと。
第四に、電子ブックと著者が素晴らしい出会いの機会をもたらす新しいマッチングモデルが構築されてくること。
著者と私が不同意な点は、二つ。
一つは、デバイスとプラットフォームに関する点。著者の指摘は間違っていない。が保守的すぎる。著者も読者も最適化なんて待っていないのだ。なぜそうなのかは「「電子書籍の衝撃」の衝撃 - 小飼弾 : アゴラ」で書いたのでそちらをお読みいただくとして、電子版の本書にしてから本書で指摘する「最適化されたプラットフォーム」、すなわち Kindle版 でも iPad版 でもないことがそのことを如実に示している。

しかしそれ以上に違うのは、現時点における本の立ち位置に関する認識。
正直、著者は現時点における本というものをかいかぶりすぎているのではないか。
右は新書判17ページに登場するマトリックスであるが、書籍は「距離近・画面大/単方向・消費」に位置づけられている。書籍に関しては異論ないが、しかしたとえばゲーム機などはどうか、ネットゲームはとにかく、世の中で現在流通しているゲームのほとんどはむしろ書籍と同じ「距離近・画面大/単方向・消費」に分類されるのではないのか?
どういうことかというと、書籍がマトリックスの一角を占有するほど大きな存在なのか、ということである。
少なくとも商業的には否であることは、以下が如実に示している。
日本の出版統計日本の書籍販売額は、ピーク時ですら1.1兆、現在では一兆円未満しかないのだ。一方ゲームは、任天堂一社だけでこの数字を凌駕している。
これ、実は海外も同様なのだ。いや、その傾向は日本以上に顕著といえるかも知れない。
P. 237実際、日本よりずっとインターネットが社会で利用されているアメリカでは、本の売上は増えています。アメリカ小売書店協会(ABA)の統計によると、書店全体の売上は、一九九七年が約百二十七億ドルだったのに対し、二〇〇四年には百六十八億ドルまで成長しているのです。
海外の分まで含めれば日本の三倍は固い米国ですら、「成長して」たったの168億ドル。一人当たりにしてみれば日本の半分強しかない。個人的にはこれこそが本書で最も衝撃的な一節だった。本はすでにマイノリティの愉しみだったのだ!
KindleとiPadがなぜ一騎打ちとならないかもこれで説明がつく。Appleにとって電子書籍市場というのは小さすぎるのだ。iPadにとっての電子書籍は、iPodにとっての音楽とはまるで意味が違う。音楽の聞けないiPodなどまるで意味がないが、電子書籍抜きのiPadはなおも魅力的である。iBooksは標準アプリではなく、初日にしてすでに3,000を超えるApp Storeで配布されるアプリの一つに過ぎず、そしてiBooksの書籍ダウンロード数はアプリのダウンロード数の1/4に過ぎないのだ。
出版関係者も本好きも、まずは改めて知っておくべきだ。
読書なんて、数ある暇つぶしの一つにすぎないのだ、と。
書籍をめぐる争いなんて、コップの中の嵐にすぎないのだ。
電子書籍が本当に重要なのは、このコップをたたき割る力がそれにあるからなのだ。
ここでやっと著者の思いと私の思いは合流する。
本は、本読みが思っているほど読まれちゃいない。よく考えればそれも当然で、本というのはずいぶんと面倒なメディアなのだ。Amazon以前は本屋が唯一の流通チャンネルだった。点けるだけで見れるTVや、クリックだけで読めるWebと比べてなんと面倒なのだろう。その上本屋に行ったからといって欲しいものがあるとは限らず(Amazonも同様。私が紹介した途端に在庫切れというのが普通になってしまったorz)、そして一度読んだら今度は不動産を食いつぶす。ろくなもんじゃない。実際本好きはろくでなしばっかしだ。私を含めて。
電子書籍は、こうした「本の黒宿命」を一挙に打破する。オンラインであればいつでも買える。在庫切れはありえない。そして不動産価格ゼロ。
電子書籍がすごいんじゃないんだ。電子化されたことで、本はやっとTVやWebといった他のメディアと同じ土俵に立てるようになったと見るべきなんだ。
そうなったら何がおきるか。
それが本entryのタイトルでもある、本のアンビエント化だ。それがどのようなものであるかは本書に譲る。本書で一番おいしいところだからだ。ネタばれは野暮というものだろう。それでも、結びだけは引用しておく。
P. 300それはぞくぞくするほど刺激的な未来です。
未来へ、ようこそ。
Dan the Bookworm
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