出版社より献本御礼。
電子書籍というものに関して実感を得るには現時点で最適の一冊。「電子書籍の衝撃」は話が大きすぎる。将来の文明論ではなく、今、そこにある現場を知りたければ本書をひも解くのが一番だ。
両書を合わせて読めば電子書籍に関しては充分、と言いたいところであるが、両書とも一つ一番、いや二番目に重要なステークホルダーに関する取材が不十分でもある。本entryではその点も合わせて書評することにする。
本書「iPad vs. キンドル」は、現時点において電子書籍に関して書かれた最良のレポート。特にiPadとキンドル以外の電子書籍プラットフォームについて詳しく調べられているのがよい。
目次- 序章 はじめに―eBookはコンピュータの夢だった
- 第1章 キンドル・インパクト!
- 第2章 キンドルのライバル、ソニーとアップル
- 第 3章 eBookへの長い道
- 第4章 eBookのビジネスモデルとは―アメリカの場合
- 第5章 日本はどう「eBook」の波に乗るのか
- 付録 キンドル購入から利用までの手引き
「電子書籍の衝撃」でもっとも不満だったのは、取材の少なさ。文明論なのでそれは致命的な欠点とは言えないのだが、著者がジャーナリストであることを考えると「ちょっと今までのストックに頼って書きすぎてるんじゃないの」というのが率直な感想だ。
特にそう言えるが、ボイジャーのVの字も出てこない事。電子書籍のパイオニアにして、現時点においても日本の電子書籍作成プラットフォームとしては最も採用されている同社が同書に一切登場しないのはあまりにひどいのではないか。同書の電子版もT-Timeで作成されていることを考慮に入れればなおのこと。余談だが、弾言 & 決弾 on iPhoneもT-Timeで生成されている。
そのあたりの不満は本書で一挙に解消する。ソニーが意外と健闘していることも本書を読むとよくわかる。だからこそ
P. 172そういう意味では、すでに「どんな端末であるか」は最重要ポイントではなく、「どんな本が読めるのか」「どんな体験ができるのか」が重要とされる時期にさしかかっているのである。
という台詞にも説得力が出てくる。
それが、本書と「電子書籍の衝撃」に共通する最大の不満にもつながってくる。
「どんな本が読めるのか」を決める者、すなわち著者への取材が決定的に不足しているのである。
このレベルの取材はあってしかるべきだったのではないか。
この不満に関しては、文明論である「電子書籍の衝撃」に対するものより本書に対する不満の方がむしろ大きくなってしまう。なにしろ本書は以下のように結ばれているのだ。
P. 238不景気な中で、新たな投資が必要な上に海のものとも山のものともつかない「eBook」ともなると、勢いリスクの低い「再利用」という話になるが、それでは成功しえない。アメリカでスタートしたように、件の編集者が言うように、「新刊」で勝負すべきなのだ。もちろんその時、すべてがeBookである必要はない。紙と併存でもかまわないではないか。
私は断然、彼らの肩を持つ。
肩を持つなら書き手を取材しろ。
一読者として一番知りたいのは、そこなのだから。
Dan the Author of [e]?Books
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