アルク小暮様より献本御礼。

出すべきところが出すべきものを出したという一冊。こういう一般名詞のみで名付けられた本というのは良本が多いのだけど、本書もその例外にあらず。もし私が今留学するのであれば、必ず入手していたはずだ。

本書「理系大学院入学」は、理系大学院留学のWhyとHowを、カガクシャ・ネットワークの中の人々がまとめた一冊。出版社のアルクは、昔から留学関連の書籍で定評がある。私も多いに参考にさせていただいた。

目次
Part I 情報編
Chapter 1 世界で活躍する研究者を目指す、
Chapter 2 注目される研究分野・研究者と求められる人材
Chapter 3 アメリカの大学院教育―日本との比較
Part II 実践編
Chapter 1 目標を明確にする4つのチェックポイント
Chapter 2 情報収集をする ―信頼のおける情報入手のノウハウ
Chapter 3 入学後を見据えて出願校を選ぶ
Chapter 4 出願準備
Chapter 5 合格通知取得後
Part III 世界で活躍する研究者からのメッセージ

中卒--というと怒る人もいるのだが形式上は一応そうなので--の私が言うのもなんだが、「日本に留まりたかったら、一度は留学しておくべき」というのは理系に関してはより真実だと思われる。逆説的ではあるが、言葉だけで勝負できないからだ。自然科学は global どころか universal 。どんなに美しい論文を書いても、自然に駄目出しされたらそれっきり。

これは、英語が外国語である日本人にとっては実に--そう、実にありがたいことである。英語を流暢に話せる必要はないのだから。「自然」が認めた事すら認めさせられればいい。もっともそれを認めさせられるレベルの英語というのも実は結構大変ではあるのだけど。流暢さはさておき、大学院に留学できるレベルの英語というのは、英語を母国語とする人たちの英語より「上」である。「上」というのは、より多くの物事を理解し説明できるという意味である。発音の滑らかさなどは無関係。

このように決して楽とは言えない大学院留学であるが、見返りも大きい。英語圏は真の意味での学歴社会であるというのは、年収からも伺える。本書のp. xiiによると学部卒の平均年収が$67,776なのに対し、Ph.Dは$115,377。

そしてやや意外なことに、少なくとも金額ベースでは先行投資はさほど大きくない。

p x.
Question 1 大学院留学にはどれくらいの資金が必要ですか?
Answer: 多くの理系Ph.D.課程では、授業料免除+生活費の支給が一般的なので、留学資金はほとんど必要ありません。

その代わりブラック企業すれすれのハードワーキングプアライフが待ち受けているというのも事実ではあるが、それでも国内に比べればまだしもであろう。本書P.11の「アメリカの大学院へ進学して良かったこと」というアンケートのトップは、「確かに授業料免除と生活費がもらえた」である。

そこには「努力すれば報われる」世界が確かにある。HarvardをドロップアウトしてMicrosoftをつくった Bill Gates のような人もいるけれど、そこまで運も才能もない人にこそ、学歴は福音である。努力型の若者は、起業とかを目指す前にこちらを目指した方がいいと「学歴がいらなかったほど運がよかった」一人として申し上げておく次第である。

Dan the Lucky Drop-out