祝・在庫復活。といっても5点限りとは情けないけど。

これはすごい。なんという電磁気学版「オイラーの贈物」。どちらか片方だけでもすごい読後感を味わえるけど、両者を読み比べると数学と物理の違いが体感できて面白い。

そう。体感。物理的(physical)とは極めて肉感的(physical)なものなのである。

本書「よくわかる電磁気学」は、「いろもの物理学者」としてネットの世界では有名な著者が、リアルの世界の本業である琉球大学准教授として行っている電磁気学の講義内容を元に、著者曰く「時には「もういいってば!」と言いたくなるほどにしつこく」、電磁気学を手ほどきする一冊である。

目次 - よくわかる電磁気学より
はじめに
第0 章 電磁気学の歴史とその意義
第1 章 真空中の静電気力と電場
第2 章 ガウスの法則と電場の発散
第3 章 静電気力の位置エネルギーと電位
第4 章 導体と誘電体
第5 章 電流と回路
第6 章 静電場から静磁場へ
第7 章 静磁場の法則-その1 アンペールの法則
第8 章 静磁場の法則-その2 ビオ・サバールの法則
第9 章 静磁場の法則-その3 電流・動く電荷に働く力とポテンシャル
第10章 磁性体中の磁場
第11章 動的な電磁場電磁誘導
第12章 変位電流とマックスウェル方程式
おわりに
付録A ベクトル解析の公式
付録B 練習問題のヒント
付録C 練習問題の解答
索引

そのしつこさは、はんぱじゃない。著者は身体でわかるまでゆるしてくれないのだ。

まず、図が3D CDである。これだけでも肉感度がぐっと違う。電磁気学は三次元+時間の四次元の世界。電磁気学でつかう数学が難しい理由もそこにあるのだが。立体図と併読すればなぜ数式がそうなっているかが目と手に伝わる。

それでも足りなければ、JavaとFlashによるシミュレーションページもある。紙ではどうしても時間次元を「そのまま」図にすることはできないのだが、アニメーションであれば時間を時間のまま見る事ができる。

そして、数式、数式、数式。本書を読了後には、「数式のない」かつ「よくわかる」なんてありえないことが絶対わかる。

そこまでやって、どこまでわかるのか。

ここまで、である。

  1. 電場は電荷より生ずる
  2. 磁場には源がない
  3. 磁場の変化が電場を生じる(電磁誘導)
  4. 電流と電場の変化(変位電流)が磁場を生む

マックスウェル方程式。equation でなくて equations. 高校数学でわかるマクスウェル方程式が新書一冊分でやっている内容を、A5版300ページ以上かけてやっているのだ。しかも著者のしつこさのおかげで、ページあたりの情報量は4倍は下らない。

なぜ、そこまで著者はやってくれるのか。

ここまでやらないとほとんどの学生がわからないことを、著者はphysicalに知っているからだ。そう。著者自身を含めて。

はじめに
私が大学1年の時、最初に受けた「大学の物理の授業」は、grad,rot,divとの出会いであった。ついこないだまで高校生で、「偏微分」の「へ」の字も知らなかった当時の私は、∂という記号の洪水の中でわけもわからないままに講義時間が終わってしまったことに衝撃を受け、「これはしっかり勉強しないとたいへんなことになる」と思った。ところがこんな決意というのはなかなか思うようにはいかないもので、私は1年の時も2年の時も、電磁気関係の単位を落としている(もちろん後でちゃんと再履修して単位を取得したが)。

著者は、physicalに知っているのである。

何を学生が知らないのかを。

私もかつてTAや塾の講師といった、教える仕事をしていたことがあるのでphysicalにわかる。教えるとは、教える事ではない。教わることなのである。何がわからないか。何に引っかかっているのか。ここまで教わる側が何をわかっていないかをわかっている教え手を、私は知らない。

履修したことのない人にとって、電磁気学とは充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かないというクラークの第三法則との最初の出会いであり、そして実は特殊相対論への入口でもある。「わけわからない」ことを電波というが、その電波もマックスウェルがまさに電磁気学で予言したものであることを考えれば、これを攻略するか否かが物理学が一生魔法で終わるかそれとも科学になるのかの分水嶺とも思われる。楽ではない。著者のようなプロでさえ単位を落とす難所ではある。しかし一歩一歩上れば確実に到達できる場所なのだ。一人ならとにかく、著者というシェルパと一緒であれば。

May the Electromagnetic Force be with You!

Dan the Physical Being