光文社新書編集部より献本御礼。

日本の大問題が解けるかはさておき、確かに面白い。実に明瞭かつ明快。著者の問題意識とその回答は、私のそれともかなりの部分一致するという点で我が意を得たりの一冊でもあった。

と同時に嘆息せざるを得ない。

やはり望遠鏡は顕微鏡を兼ねることは出来ないのだ、と。

本書「日本の大問題が面白いほど解ける本」は、「さらば財務省!」で名をはせ、窃盗容疑で書類送検され一度は著者名を抹消された著者の、「復帰後」第二作。第一作が「バカヤロー経済学」の続編なので、事実上の復帰作はこちらではないか。

その「バカヤロー経済学」以上にわかりやすい本書は、「タカハシ先生に聞いてみよう」という一問一答形式の項が、以下のとおり並んでいる。

目次
まえがき
公共事業、やめるべきか続けるべきか、それが問題だ - 「八ツ場ダム」を例に
第1章 民主党政策の大問題
1 高速道路無料化が天下の愚作のわけ
2 民主党の政策、「財源不足」じゃないの?
3「子ども手当」はばらまきなのか?
4 民主党には成長戦略がないけど大丈夫?
5 周波数オークションは儲かるの?
6 借金返済猶予法案(中小企業金融円滑法)は金融危機を招く?
7 公共投資(財政政策)で景気は良くなるの?
8 デフレと円高はなぜ良くないの?それを防ぐにはそうすればいいの?
9 為替介入は円高阻止に効果があるの?
10 日本優勢社長にもと大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任。これの何が問題?
11 借金が九七三兆円もあって、日本は大丈夫なの?
12 国が破綻するってどういうことなの?日本は大丈夫?
第2章 社会保障制度の大問題
13 年金は積立方式にすればいいんじゃないの?
14 話題の「負の所得税」とは何ですか?
15 再分配政策がうまくいけば、経済成長しなくていいのでは?
16 スウェーデンみたいに、消費税を年金の財源にすればいい?
第3章 社会保障制度の大問題
17 法人税ゼロは大企業優遇じゃないの?
18 話題の「寄付控除」って何?
19 「増税して景気が良くなる」ことはあるの?
第4章 地方分権の大問題
20 地方分権って一体どういう意味があるの?
21 地方分権はいいけど、財源はどうするの?

高速道路無料化に関しては、ガソリン代を上げるという案が出ていない点で、そして年金の積立方式に関しては、本書で唯一不明朗(不明瞭ではない:)な回答ということで著者の意見には首肯できないのだが、それらに関しても違うのは初期条件で考え方は同等で、残りは結論もほぼ一致する。

一問一答形式ということもあって、本書は「短編集」という色合いが強いのだが、その中でも最も重要なキーワードはGDPギャップだ。「需給ギャップ」とも「デフレギャップ」とも表記されるこれは、潜在GDPから実際のGDPを引いたもの、すなわち供給力と実需用の差ということになる。これがピークで40兆円で、今も30兆円あまりもある。これを埋める政策をまず行えというのが著者の主張で、具体的にはこのようになる。

P. 158
その際、有効な財政政策は、一挙に支出することが可能で、しかもフェアな方法である大幅な減税や給付金です。それで消費を刺激することです。国民一人当たり一万円などという中途半端な金額ではなく、10万円、20万円規模の給付金をすぐに実行すべきです。

「もちろん、金融政策も同時に行うことを忘れてはいけません」と続くのであるが、金融政策の方は本書で確認して欲しい。額といい手法といい、まさに「404 Blog Not Found:ベーシックインカム 一番かんたんな方法」である。

本書の通りものごとを進めていけば、たしかに「日本の大問題」は「面白いほど解ける」ように思える。それではなぜそのようにものごとを進められないのか?

それで面白くなくなる人々が存在するからである。要は既得権益者である。そこまでは著者に限らずほぼ誰もが「大問題解決の障害」として取り上げる。

問題は、どうしたらこの「障害」を取り除けるか、著者も含め論じる人がほとんどいないことだ。

これが本書のもう一つのギャップ、焦点距離ギャップだ。もちろん本書には出てこない。

これの解決方法は実は簡単だ。

彼ら既得権益者の権を、充分な益をつけて買い取ってしまえばいい。

ASCII.jp:搾取された30代が日本を変える──中島×小飼×津田・鼎談(後編)
小飼 だから、ゴルフをやりたい人たちにゴルフだけをさせるにはどうしたらいいかということから始めた方がいいかもしれないですね。
 彼らだって若い頃には苦労して、搾取されていたわけですから、ゴルフをやる権利はあるわけです。でも、そういう人にこれからゴルフに専念してもらうための制度がない。会社に籍があるとゾンビになってしまう。だからもうゴルフをしたい人には、相当な退職金を出して、ゴルフを自分の金でやってくれ、と。そんなにゴルフが好きだったら(笑)

しかしこれは買い取る立場からしたらすこぶる面白くない。何が悲しゅうて「盗人に追い銭」しなければならないのか、というわけである。だから余計に--しばしば必要以上に--我々は彼らを叩く。そして叩かれた結果、彼らの退職金相場も上がってしまう。「これだけの仕打ちを受けたのだから、これくらいはもらわないと」。

しかし、実際に退職金の額を計算した人はいるのだろうか?

案外小額で収まるのではないか。なにしろ対象者が少ない。公務員が25%もいるギリシャと違い、日本は5%を切っているのだ。そもそも「盗人に追い銭」だって、元をただせば彼らにそうさせていた有権者が悪い。手切れ金はきちんと支払うべきなのだ。

本書によると、著者はその手の退職手当とは一切無縁だったそうである。もしもらっていたら「さらば財務省!」という台詞とともに去りぬとは行かなかっただろう。これは経済(学者|評論家)として人生2.0をリリースした著者の視点ではプラスであっても、いかに「老害を穏便に減らすか」という視点を著者から奪うことでもある。

これに限らず、著者は遠くを見て大きく考えるのは得意でも、近くを見て小さく考えることは苦手としているようだ。著者にとって後者は面白くない問題なのだろう。しかしそれこそが大問題を解くのあたって避けては通れない小問題なのではないだろうか。

Dan the Taxpayer