講談社柿島様より献本御礼

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モチベーション3.0

持続する「やる気!」をいかに引き出すか
Daniel Pink / 大前研一
[原著:Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us]

誰かに何かを命じる機会がある人であれば、必ず目を通しておくべき一冊。部下を持つ上司、子を持つ親はもとより、お店で何かを注文する機会がある人もそこには含まれる。要するに現代人であれば、本書に書かれていることはCommon Sense = 共通認識となっていて然るべきということである。

と同時に、一日本人として本書が日本人--たとえば訳者--によって書かれた本でないことをちょっぴり惜しいとも思う。iProdsを作ったのがSonyではなくAppleだったことを知った時に感じた気持ちにも似て。

本書「モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか」は、一言で言えば著者のTEDスピーチ「やる気に関する驚きの科学」を一冊の本にまとめあげたもの。

訳者まえがき
停滞を打破する新発想〈モチベーション3.0〉
はじめに
ハリー・ハーロウとエドワード・デシの直面した謎
本書に出てくるキーワード
第一部 新しいオペレーティング・システム
第1章 〈モチベーション2.0〉の盛衰
第2章 アメとムチが(たいてい)うまくいかない7つの理由
第2章の補章 アメとムチがうまくいく特殊な状況
第3章 タイプIとタイプX
第二部 〈モチベーション3.0〉3つの要素
第4章 自律性
第5章 マスタリー(熟達)
第6章 目的
第三部 タイプIのツールキット
個人用ツールキット モチベーションを目覚めさせる9つの戦略
組織用ツールキット 会社、職場、グループ能力を向上させる9つの方法
報酬の禅的技法 タイプI式の報酬
保護者や教育用ツールキット 子どもを助ける9つのアイデア
お薦めの書籍 必読の15冊
グルに聞く ビジネスの本質を見抜いた6人の識者
フィットネスプラン 運動へのモチベーションを生み出す(そして持続させる)ための4つのアドバイス
本書の概要
ディスカッションに役立つ20の質問
自分自身とこのテーマを、さらに掘り下げるために
謝辞
やる気に関する驚きの科学

原著名は"Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us"。ちょっとこの邦訳はどうよと思ったが、そこは大前研一。ぬかりなくその理由を「訳者まえがき」で述べている。

本書は今をときめくアメリカのベストセラー作家ダニエル・ピンクの最新作『DRIVE』である。原題のドライブという語感は日本語ではクルマの運転、などという意味にも取れるし、何物かに駆り立てられる、という意味でも使われる。しかし持続してやる気を出す、という意味でよい訳語が見つからなかったので本書では「やる気!ドライブ!」と!マークをつけている。日本語のタイトルは『モチベーション3.0』としたが、この辺の事情を筆者に電話で伝えたところ、なんとブラジルとトルコでも同じタイトルになっている、という。

それはモチベーション3.0とは一体どんな「OS」なのか。本書によるとこういうことになる。

  • 〈モチベーション1.0〉…生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOS 。一言で言えば「食い気」
  • 〈モチベーション2.0〉…アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOS。ルーチンワーク中心の時代には有効だったが、21世紀を迎えて機能不全に陥る。一言で言えば「やらなければやられる気」
  • 〈モチベーション3.0〉…自分の内面から湧き出る「やる気!=ドライブ!」に基づくOS。活気ある社会や組織をつくるための新しい「やる気!」の基本形。一言で言えば「真・やる気」

ということになる。その要諦は、実に簡単だ。小学生の私の娘たちにもわかる。お受験まっさかりの長女であれば、彼女の母よりもよくわかっているかも知れない。「紅のダン」の言葉から引用しよう。

As long as the task involved only mechanical skill. bonuses worked as they would be expected: the higher the pay, the better the performance.
But once the task called for "even rudimentary cognitive skills," a larger reward "led to poor perfomance"

「仕事が完全に機械的なものなら、報酬が多ければ多いほどパフォーマンスは上がるが、少しでも知的能力が必要な場合、報酬が上がるとパフォーマンスは下がる」というのである。

この知見は著者に限らず多くの人々が薄々気がついていることではあるが、著者の特長はそれをきちんと「見える化」したことにあり、そして本書の功績は「ではどうすればよいか」をきちんと「インストール」できる形にまで仕上げた事にある。どうすれば一万時間続けることが出来るようになるのか?本書でぜひ確認していただきたい。

一つ勘違いしないで欲しいのは、著者はモチベーション2.0を捨てろなんて一言も言っていないということ。それどころは「OS互換性問題」に著者がどれだけ気を使っているかは、第2章に補章をもうけたことからもわかる。「やる気!」があればワーキング・プアであることを甘受せよという立場を著者はとらない。

実のところ、本書の知見そのものは、決して新しいものではない。師弟関係がまだ残る日本は、著者の米国よりもモチベーション3.0はインストールしやすいとすら私は感じる。

そのことがかえって、本書のようにそれをパッケージ化することの支障になってはいないだろうか?

「OS」といいつつ、「カーネル」で満足してしまってはいないだろうか?

まあいい。iProdsがある世の方が、iProdsがない世よりよっぽどいいではないか。iProdsを作ったのが自分かどうかは、それに比べれば些細なことである。そしてiProdsと同じく、そのよさは体験してみないと本当のところはわからない。是非本書を試して欲しい。いまだOS1.0の人も、OS3.0のプロトタイプを開発中の人も。

Dan the Driver of His Own