筑摩書房松本様より献本御礼。

私に寄せられる質問で最も多いものの一つは、「なぜそんなに速く本を読めるんですか?」というものだ。困った事にこれは私にとって「なぜ自転車に乗れるのですか?」と同じぐらいの難問で、「ものごころ付いた頃には乗れるようになっていた」というのが率直な返答であり、それゆえ拙著「空気を読むな、本を読め。」でも「新書がベスト」でも、我ながら納得が行く解答が出来たとは言い難い。

答えは、やはり本にあった。

これからは、「本書を読んでください。それが答えです」と答えられる。

本書「「予測」で読解に強くなる!」は、文章術に関して多くの著作がある著者が、文章を読むにあたってやっていることのうち、「予測」に絞ってまとめた読解術。これが功を奏した。

目次
はじめに
第一章 文章理解とは?
頭の中の理解の姿
音に頼るか文字に頼るか
読んだ順に理解できる不思議
文章理解のしくみ
ボトムアップ処理とトップダウン処理
第二章 予測とは?
予測を体験する
予測させる力の幅
予測のいろいろ
当たる予測と外れる予測
予測とは何か
予測は文法ではない
予測を研究する方法
第三章 問いの予測とは?
「深める予測」と「進める予測」
冒頭文の「深める予測」
「ケーベル先生」に見る「深める予測」
順接展開の「進める予測」
逆説展開の「進める予測」
第四章 答えの予測とは?
「答えの予測」に価値があるジャンル
予測が当たって怖くなる
予測が外れて可笑しくなる
予測が外れてホッとする
「盲点」をつくテクニック
第五章 予測の表現効果とは?
書くことと予測
構成を予告する
意味のまとまりを作る
文章のタメを作る
行間を読ませる
文章世界に引きこむ
おわりに
この本に登場した文章例
おわりに
文章の読み方の本を書いてほしい。丁寧に書かれた字と熱意がぎっしり詰まった手紙が届いたのは、昨年の九月です。差出人は、ちくまプリマー新書編集部の四條詠子さんでした。その時点で『「読む」技術 速読・精読・味読の力をつける』(光文社新書)の原稿がほぼ完成しており、内容の重複を恐れて一旦はお断りしたのですが「予測に特化した本で」という四條さんのご提案で、おもしろいものが書けると判断し、お引き受けしました。

同書もなかなかの佳作であるが、しかし本書はこの「予測に特化した」ことにより、一段と鋭いものとなっている。手前味噌ながら、「空気を読むな、本を読め。」の後に「新書がベスト」を上梓したときのシーチュエーションにそっくりである。

そう。予測。

次に何が来るか、想像しながら読んでいく。

それを続けて行くだけで、私程度には速読・精読・味読が出来るようになるはずなのだ。

これはまた、なぜ自分が慣れた分野の本は速く読め、そうでない分野の本は読むのに時間がかかるのか、ノンフィクションよりフィクションの方が時間がかかるのか、同じフィクションでも第一巻より第二巻の方がずっと速く読めるのかという疑問に対する、実に自然な解答でもある。予測の精度が高ければ、「当たった」ところは飛ばせるだろうというのは当然の予測である。

それでは予測が当たればいいのか?もちろん否である。もし予測が100%当たるのであれば、読書そのものが不要となる。実際予測が当たりまくる本というのはつまらない。さりとて予測が全く出来ない本というのは理解不能である。もちろん理解不能ですらそれを楽しむという本もこの世にはあって、筒井康隆はまさにこの分野の名手なのではあるが、それはさておき読んで心地のよい本というのは、予測の当たり外れのバランスが絶妙なのである。この点はフィクションもノンフィクションも変わらない。

そして予測の精度というのは、読書経験が重なるごとに上がって行くが、決して100%にはならない。

私が「そんなに速く読める」理由、そしてこれが大事なところだが「にも関わらず読書に飽きない」理由というのは、これでほぼ100%説明がつくはずだ。

このように読書というのは実は予測という方法で「頭の中で本を書きながら」、著者の本と「見比べる」という行為でもある。裏を返せば読者を読めれば、本も書けるということである。読む事は書く事であり、書く事は読む事である。

本書をひも解くにあたってあらかじめ「読ませてもいい」紹介はこれくらいで充分であろう。あとは本書に直接当たって欲しい。もちろん、著者があなたをどのように予測しているのかを、予測しながら。

Dan the Bookworm