返答に窮する問題というのがある。

私の場合、そのうちの一つは「統計を学ぶときに読むべき本」というものだ。

すごく悩ましい。現時点で「特効薬」とか「決定打」というのは見当たらない。Perlのラクダ本や、JavaScriptのサイ本といった、いわゆるバイブルは存在しない。

が、AIDSにカクテル療法があるように、統計もカクテル読みで学ぶ事は出来る。というわけで現時点で最強のカクテルならこうなるというものを取り上げてみたい。

結論から言うと、「マンガ統計学入門」で統計の世界を鳥瞰しつつ、「運は数学にまかせなさい」で統計の落とし穴に実際にはまってみながら、「統計学入門 (基礎統計学)」と「STATISTICS HACKS」の問題を手を動かして解いてみる、ということになる。うち"STATISTICS HACKS"はすでに紹介したので今回は残りの三つを紹介する。

本blogの読者であれば、レーベルと編者と訳者の名前を見るだけで、「外れはない」という安心感を得られるだろう。実際そのとおり。「マンガでわかる統計学」も悪くないのだが、正規分布に過重なウェイトがかかっているという、「統計本のバイアス」を同書も引きずっている上、正規分布の導出の唐突感が否めない。

新書でマンガであるにも関わらず、きちんと索引がついている点もよい。

とはいえ鳥瞰だけで紙幅が尽きてしまったのも否めない。統計の時間的(歴史的)広がりと空間的広がりを大づかみにするなら本書だが、これを読んでも統計の問題を解けるようにはならないのであしからず。


先日文庫化されたものを、早川書房富川様より献本いただいた。

面白さで言うと本書は数ある統計本でも一番に来る。「統計って退屈な数字をエクセルのフォームに入れることでしょ?」と思っている方は本書でその面白さに目覚めて欲しい。

まず引っ掛け問題、落とし穴問題が多いのがよい。「ポアソン・クランピング」という言葉が早くも第二章に登場する。これは無秩序にありもしない秩序を見いだしてしまうことで、星座なんてその典型である。

次に、問題が離散的(discrete)なところがよい。本書では確率を何分の何という言い方ではなく、「何回やったうちの何回」という例示にしている。連続化・正規化は統計の処理を容易にするが、しかし結果のインパクトはそれによって落ちてしまう。我々は1ppmより「百万回に一回」の方がずっと強い印象を受けるのだ。

「運は数学にまかせなさい」はネ申訳ではあるが、しかし数学にまかせっぱなしにしてはだめなのだ。


最後はこちら。TwitterのTLで複数人に薦められた。

実際に東京大学で教科書として用いられているものだ。それも教養学部で。要するに専門家でない人たちにも統計が使えるようにするにはどうしたらよいかという観点で編まれた一冊である。必要に迫られて統計を使わざるを得ない人たちのために作られただけあって、すこぶる丁寧でわかりやすい。「知る」のではなく「学ぶ」のであれば本書が第一選択肢だろう。

ただし見てのとおり、本書は教科書。必要に迫られて読むにはよいのだが、本書の表紙を見て統計って面白そうだと思う人はいないだろう。他書で「前戯」しておいた方が、スムーズにインサートできるのは間違いない。

しかし統計というのは、簡単で難しい。個々の要素は四則演算のみで間に合うことも少なくないのに、理論ともなると格段に難しくなるし、しかもちょっとした見落としで簡単に引っ掛け問題が出来てしまう。「同じ誕生日問題」など、定期的にソーシャルストリームで話題になる問題も少なくない。「わかったら一生もの」感が一番つかみにくいのがこれではないか。

だからこそ、定期的に学びなおしておきたいし、学び直しても新鮮に感じるのがこの分野。新規参入も数学の他の分野よりも容易そうではある。我こそはと思う方は、ぜひ。


Dan the Poison-Clumped