幻冬舎小木田様より献本御礼。
お盆に読む本として本書以上にふさわしい本はない。
死ぬのが怖い人は、ぜひ本書で知って欲しい。
我々には一人残らず「きさまは常に死んでいる」があてはまるのだということを。
本書「ヒトはどうして死ぬのか」のどうしては、「どのようにして」、howの意味であると同時に、「なぜ」whyの意味でもある。細胞死の研究者である著者は、そのことを通して死がいかに生にとって不可欠であるかを説く。
目次- まえがき 私がなぜ「死」の謎を追うのか
- 第1章 ある病理学者の発見
- 第2章 「死」から見る生物学
- 第3章 「死の科学」との出合い
- 第4章 アポトーシス研究を活かして、難病に挑む
- 第5章 ゲノム創薬最前線
- 第6章 「死の科学」が教えてくれること
そう。我々は常に死んでいる。60兆からなるヒトの細胞社会では、毎日3000億もの細胞が死んでいる。全人類の人口の50倍もの生が、毎日あなたの体から喪われているのだ。それも、単純に古い細胞が新しい細胞に置き換わるというのでですらない。我々の姿形は、文字通り死の造形。イモムシはさなぎの中で死んでチョウとなる。五本指は指が延びるのではなく、指の間の細胞が死ぬ事によって五本指となる。
この個体の生のために不可欠な細胞の自死を、生物学では「アポトーシス」 apoptosis という。これに対して細胞が破壊されて死に至る事故死を「ネクローシス」 necrosis と言うが、実はこのアポトーシス、生命が地球上に誕生してからの最初の20億年間、存在しなかったのだ。
それではなぜ細胞は自ら死ぬようになったのか?
変化を常態とするためだ。
変化には二つの方法がある。それのまま変えるか、新しいものを作って古いものを捨てるか。生物が選んだのは、後者だった。劇的に変化することを我々は「生まれ変わる」と言うが、これは比喩ではなく事実なのである。
遺伝子にとって、新しいものを作ることが性であり、そして古いものを捨てることが死である。
性がうまれたとき、死もうまれたのである。死は性の双子の妹なのだ。
ここでもし、死なななかったどうなるのか?
それこそが、ガンである。あれは死ぬべきときに死ねなかった死に損ないの細胞なのだ。アポトーシスを忘れた細胞たちは、ついには個体をネクローシスに追い込んでしまう。研究者としての著者の目標の一つは、このガン細胞たちにどうしたらメメント・モリしてもらうか思い出してもらう方法を見つけることでもある。
しかし本書はそこでとどまらない。
howを超えて、whyまで踏み込んでいる。
著者は言う。
死こそが、遺伝子が利他的である証拠なのだと。
このことを理解するのに、生物学者である必要は全くない。
No one wants to die. Even people who want to go to heaven don't want to die to get there. And yet death is the destination we all share. No one has ever escaped it. And that is as it should be. because Death is very likely the single best invention of Life. It's Life's change agent. It clears out the old to make way for the new. Right now the new is you. but someday not too long from now, you will gradually become the old and be cleared away. Sorry to be so dramatic, but it is quite true.
しかしそのからくりを知ることは、上手に死ぬ方法を見つけることにも繋がる。そして上手に死ぬということは、すなわち上手に生きる事なのである。
P. 165「生きるとは何か」「自分とは何か」という問題、言い換えれば「自分が生きていく意味」は、「個として全体のためにどのようにあるべきか」「自分以外の他者のため、次の世代のために何を遺すか」にある--これが、「死の科学」を敷衍して導かれる答えなのだと思います。
もちろん、細胞と個体の生と死の関係をそのまま個人と社会に当てはめるのには無理がある。生まれて数日で死なねばならぬ細胞もあれば、一生を通して死ねない細胞もある。「細胞間の格差」は、とても個体としてのヒトが受け入れられるものではないだろう。個としてのヒトは、細胞ほど全体主義ではないし、そうである必要もないと思う、いや願っている。
しかし「全」の生は、「個」の死によって成り立っていることは、根源的に同じである。
そして、我々の遺伝子は、どうやって死ねばいいかを知っている。
それが当たり前ではなく、有り難いことなのだ。どうして本書を読むべきなのか。これが必要にして十分な理由である。
Dan the Mortal
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