早川書房東方様より献本御礼。

これだ、これだったんだ!

何が今までの数学書に足りなかったのか、これでわかった。

笑い、だったんだ。

本書「数学で読み解くあなたの一日」は、数学者でもあるギタリストによる、数学の弾き語り。なにしろタイトルからしてシャレである。原題"Our Days Are Numbered"は直訳すると「我々の余命は数日です」。「われわれはもう死んでいる」「人類終了のおしらせ」といったところだ。シャレ込みだと「おまえはもう数でいる」といったところだが、さすがにこれだとスベりすぎ。邦訳題は無難ではあるが、無粋でもある。もう少しがんばって欲しかった。

目次
  1. 番号札をお取りください
  2. みんなの換算教室
  3. 一つのグラフは千の言葉に匹敵する
  4. 統計の話
  5. 数独はいかが?
  6. 確率、決定、恐怖の要因
  7. ロングテール、あるいは逃さなかった話
  8. ネットワーク、名声、偶然の一致
  9. 素数でインターネットバンキング
  10. 自然、芸術、フラクタル
  11. セックス、数学、ロックンロール
  12. 数学にできること
謝辞
訳者あとがき

が、タイトルは無理でも、中身は十二分に James ならぬ Jason Brown 節が反響している。一節だけ引用しよう。

P. 170
それは「役には立たないが魅力的な問題」(「パリス・ヒルトン」問題と呼びたいもの)の一つだった。

「パリス・ヒルトン」問題www微分可能性フイタwww

本書にはこうした表現が無数に--いや、本書は高々有限なのだから多数--ちりばめられている一方で、数学語を控えつつ数学を説明している。

P. 163
この小さな曲線は多くの美しい性質を持っている。たとえば、どこにも滑らかなところがないにもかかわらず一つにつながっている。

著者がえらいのは、表現をこれで留めていること。

数学者であれば、つい「連続なのに微分不可能」と言ってしまうのではないか。

本書が取り上げている問題は、昨今の数学啓蒙書からさほど逸脱しているわけではない。それは目次を見ても伺えるだろう。数学好きな人であればもしかして食傷しているかも知れない。また囚人のジレンマか。またフィボナッチ数か。またコッホ曲線か…

しかし、本書の最終章に登場する問題は、どうか。

The Beatles の地位を不動のものとした、 A Hard Day's Night の、一度聞いたら二度と忘れない、あの最初の「ジョヮーン」がどのように弾かれたのかを当てるというのは。

それが、目次の右にある楽譜である。以下からお借りした。

本書の魅力が、そこにある。数学啓蒙書なのに、数学者自身による「新譜」がきちんと入っているのである。

本書は数学書における「ゾウの時間、ネズミの時間」である。同書を楽しんだ100万人以上の人は、楽しめるはずだと弾言しておく。

Dan the Numbered