化学同人津留様より献本御礼。

これはすごい。外れがないことには定評があるDOJIN選書の中でも大当たりの一冊。

文字通り、ものの見方が見えるようになる一冊。

「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」はClarkeの第三法則として知られるが、充分に解説された科学技術は、魔法(wonder)よりワンダフルなのである。

本書「だまし絵のトリック」は、世界一のだまし絵師によるだまし絵の理論と実践。

目次 だまし絵のトリック - 株式会社 化学同人より
まえがき
第1章 “だまし絵”の不思議
一 だまし絵を観察してみよう
二 だまし絵の疑問
第2章 あり得る絵とあり得ない絵
一 ペンローズ三角形の不可能性
二 作れない証拠の基本パターン
第3章 絵を解釈するための頂点辞書
一 まず議論のための土俵固めから
二 ラベルづけによる絵の解釈
第4章 だまし絵の描き方
一 立体感をもたせるために
二 正しい部品をでたらめに組合せる
三 だまし絵の美しさ
第5章 立体認識の原理
一 両眼立体視
二 運動立体視
三 単眼立体視
第6章 投影の幾何学と遠近法
一 投影法の種類
二 遠近法の性質
三 奥行きの不確定性
第7章 正しい絵の見分け方
一 描かれた立体の再構成
二 コンピュータの振舞い
第8章 だまし絵の立体化と新しい立体錯視
一 不連続のトリック
二 曲面のトリック
三 非直角のトリック
第9章 不可能モーションの錯視
一 基本的アイデア
二 不可能モーションのバリエーション
第10章 人の視覚と非直角のトリック
一 直角の思い込み
二 直角の思い込みにはわけがある
三 錯覚は足りない情報を補うことに失敗したとき生じる
錯覚コンテスト参戦記――あとがきにかえて

「世界一のだまし絵師」というのは私が勝手にでっちあげたタイトルではない。著者はBest Illusion of the Year Contest の2010年の優勝者なのである。それが、こちらの作品である。すでにご覧になった方も少なくないかもしれない。

二次元上に描かれた不可能な立体図が可能に見え、三次元上に作られた可能な立体が不可能に見える。なんとも不思議な現象であるが、それを解明していくと、人はどうやって立体を認識しているかに行き着く。そしてその過程で、こうした不可能な立体の作り方も分かってくる。

早い話、本書は種明かしの本である。この本に従えば、あなたも私も不可能立体をいくらでも作ることができるようになる、ということである。

それどころか、写真から立体を再現するプログラムまで作れるようになるということである。

しかしあなたも私も、そして本書に従って書かれたプログラムも、やはりだまし絵には騙される。これはある意味しかたがない。どちらも本当の立体を見ているわけではなく、二次元という一次元低い情報から三次元を再現しようとしているのだから。そう。我々には二次元しか見えない。本当に三次元が見えるのであれば、五臓六腑まで見えていなければならないのだが幸か不幸かそれはない。

そういったことが、すべて頭でわかっても、いやむしろわかればなおのこと、その凄さがより強く感じられる。それが学問というものなのだろうか…

眼福にして脳福な一作。ぜひご一読を。

Dan the Amazed

業務連絡:添え状に「各位殿」とありますが、宛先の敬称が不明/不定だから「おのおののくらい」と書くのです。「殿」つけたらぶちこわしですぞ編集者殿。