集英社新書編集部より献本御礼。

「ピンボケなのは、日本の語学教育ではなくこの書影だ!」というのはご愛嬌。まだAmazonに書影が上がっていないので手元の複合機のスキャナーにかけたものをそのまま使っている。

今までで目にした中で、 the uniquest な外国語学習法を、少しでも早く知らせたかったので。これだけ unique なのは「英会話ヒトリゴト学習法」以来だ。

However unique and strange they may sound, the author's words did make sense to me.

本書「外国語の壁は理系思考で壊す」の著者は、スーパーコンピューターを20万円で創った人でもある。作ったのは宇宙をシミュレートするため。と聞くと、いかにも外国語なんか大の苦手、それどころか日本語よりもプログラミング言語、プログラミング言語よりも数式の方が得意という、まだ市民権を得る前の「オタク」という言葉が似合いそうな人を思い浮かべる人も少なくないのではないか。

目次
はじめに
I. 現実を見よう
II. 外国語の音
III. 翻訳してはいけない
IV. 内容がある話の方がよくわかる
V. いろいろな外国語から学ぶ
VI. 音よりも重要な語彙
VII. 異なる言語では語彙や概念の体系が違う
VIII. 動作と状態の区別
IX. 語彙を増やそう
X. 知っている言葉はいろいろある
XI. パソコンの言葉
XII. 実用に使えるようになるために
おわりに

ところが著者はさまざまな言葉を自由に行き来する。英語について話していると思ったらドイツ語に、ドイツ語について話していると思いきやロシア語に。

P. 60
1963〜69年の株式会社東レのロゴは、現在のTorayと違ってТогачというデザインになっていた。これは、ロシヤ語としてはトガーチと読むのが自然である。なお、ロシヤ文字のуはウーである。

まずこのことからして、私のような nullingual には驚異的である。私はしょっちゅう今自分が何語を話しているかを忘れる。毎年YAPC::Asiaの季節になると我が家は日英 bilingual 環境になるのでまわりに迷惑をかけっぱなしだったが、今年は Hotel DAN は closed で Hackerthon も別会場なので我が家は例年よりも静かな予定なのが少しさみしい。それはさておき、この感じをなんとか説明すると、カナ漢字変換で半角モードなのか全角モードなのかを忘れるというのがそれに近いのではなかろうか。

ところが著者は、以前「手作りスーパーコンピュータへの挑戦」で、カナ漢字変換はバッチ処理でやっていると書いていて、それにずいぶんと関心した覚えがある。当然誤変換は残るが、八割はうまくいくのであとはそれを手直しするのだ、と。

著者の外国語学習法がそれに似ているのは、目次からも推察いただけるのではなかろうか。

著者はその趣旨を、以下のとおりまとめている。

  • 言葉は音で伝わるのではなくて、意味と内容で伝わる。
  • だから大切なのは発音より語彙と論理構成である。
  • 外国語の造語法を知れば、語彙は芋づる式に増える。
  • それは、努力せずに外国語を実用に使えるようになる近道である。

これ、自然言語というよりコンピューター言語の習得法に近いのではないか?

確かにこの学習法では異性を口説けるようにはならないかも知れない。しかし、論文やblogやwikipediaであれば確実に読めるようになるし、そして読めればある程度は書けるようになる。

そのためには、まず出発点となる言葉の論理構成と語彙が必要になる。それこそが、「日本の語学学習はピンボケ」であるの真意なのである。なぜ外国語が話せないか?それ以前に日本語がきちんと読み書きできないからだ。

同様の主張は、「非論理的な人のための論理的文章の書き方入門」をはじめ、およそ私が「これは使える」と感じた日本語文章指南本には多かれ少なかれ必ず同様の言及があることを考えると、奇異に見える著者の主張は、実は「超まとも」であり、それを奇異に感じる我々の方が偏見に毒されているのかも知れない。

忘れてならないのは、著者は研究者であると同時に指導者でもあり、数多の論文を添削してきた人でもあるという点だ。その著者が、

P. 195
大学の先生仲間で考えると、理科系の先生のほうが文科系の先生と比べて、より自在に外国語を読み・書き・討論に使っている傾向があると私は思う。

というのは、単なる身内びいきを超えた何かがあると、私自身の「身内びいき」を差し引いても思わざるを得ないのだ。

そうそう。理系の理系たるところは、それが理にかなっているかを自ら検分するところにある。ぜひそうして欲しい。それは著者の望むところなのだから。

そしてもちろん、私の。

Dan the Nullingual