中公新書編集部より献本御礼。
はやぶさ関連の書籍はすでにいくつも出版されており、それらの多くが「単なる感動の物語」に留まらない極上の科学レポートとなっているが、それでも本書を外すわけには行かないだろう。
なにしろ、本書ははやぶさプロジェクトマネージャーその人の手によるものなのだから。
本書「カラー版 小惑星探査機はやぶさ」は、構想25年、プロジェクトチームが出来て15年、打ち上げから7年、そして60億kmを経て帰還を果たした小惑星探査機はやぶさの旅路を、「中の人」の代表がふりかえったもの。
人類史に残る旅路だけあって、新書編集部の力の入れようもすばらしい。新書界でも一、二を争う地味な装幀で知られている中公新書の中で、最も美麗な印刷なのではないか。フルカラーな上、ノンブルのところが地球、火星、イトカワ、そしてはやぶさの軌道遷移をあらわしたパラパラマンガになっている。それでいて、詰め込みすぎになっていない。新書という紙幅に限度があるメディアを、実に上手に使っている。この点に関しては今年の新書ベストはこれで決まりだ。
そんなはやぶさの長い長い旅路を一言でいえば、「人事を尽くして(人工)天体を待つ」ということなのだけど、その人事の尽くし方がはんぱじゃない。通信エンジニアのはしくれでもある私からすると、はやぶさとの1ビット通信のところだけでも「参りました」。100ms程度のレイテンシで切れそうになる自分が恥ずかしい…
はやぶさは、その人事に十二分に答えてくれた。それがどれほど困難かは、以下の一文からも伝わってくる。
P. 128二〇〇五年十二月十四日の記者会見では、「はやぶさ」について、「現状はくしゃみ一つ」で危篤に陥る状態である。帰還は、重病人にポストまで歩いてもらってはがきを出そうとしているものだ」と答えている。
はやぶさが文字通り身を挺してはがきを持ち帰って来たのは、みなさんご存知のとおり。解読はこれからである。
すでに商業ベースに乗り、保険まで完備している人工衛星とは異なり、地球の重力圏を脱する人工惑星はずっとずっとずっと難しいのは、火星探査機のぞみや金星探査機あかつきを見てもわかる。ローンチウィンドウには必ず火星向け探査機を打ち上げているNASAだって何度も何度も失敗している。このあたりを深く知りたい方は、以前紹介した「ローバー、火星を駆ける」を。広く眺めたい方は、「宇宙と地球を視る人工衛星100」を。後者は改めて献本御礼。
行くだけだけでも難しい地球圏外まで行って、そこにあるものを持ち帰ったのは、まさに人類初の快挙。アポロでさえ月という地球圏内だったことを考えれば、はやぶさが成し遂げたことの意義の大きさがあらためて実感されるのではないか。
それでも、はやぶさミッションはヒヤリハットが多すぎる。まるで「大丈夫だ、問題ない」の後のイーノック状態もいいところ。「ここで死ぬ定めではないと」とばかりに還って来たのはすごいけれど、改善点は少なくない。やはりここは改めて「一番いいのを頼む」べきだろう。
しかし善し悪しというのは、結局のところやってはじめてわかるものである。
ISASとNASDAがJAXAに統合された今後も、宇宙探査は今後も何度も失敗に遭遇するだろう。しかしそれらは欠かすことができない成功の母であり、死産を責めるのは母に対してもっともやってはいけないことである。
人事を尽くしても、天命を待ち続ける事にかわりはないのだから。
Dan the Star Gazer
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。