著者より献本御礼。

2011年の仕事始め前に読んでおくべき本No.1。

特に、社員数二桁以内の中小企業の経営者は。

本書「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」は、株式会社 EC studioの経営理念とその実践を一冊にまとめたもの。前作「iPhoneとツイッターで会社は儲かる 」の方も献本いただいたのだが、後者ばかりで率直「うちのガジェット自慢」にしか感じられなかった。本書は、違う。「なぜこう実践した」のかが、これできちんとわかる。

オビより
  • 顧客に会わない
  • 電話を受けない
  • 社員をクビにしない
  • 10連休が年4回
  • 給料は高く、勤務時間は短く
  • いつでもどこでもオフィス
  • 売り上げ目標に固執しない
  • 会社規模を追求しない
  • 21時に強制退勤
  • お客様は神様ではない
  • マズローの欲求5段階説
  • 社員のやりたいことをさせる
  • 社長とランチ
  • 全社員が経営を学ぶ
  • 実家に帰って親孝行
  • 波乗り戦略
  • 1と4にこだわる
  • プレイステーションでテレビ会議
  • ツイッターで業務連絡
  • 全社員にiPhone支給
  • 遣唐使制度
  • 上司は決して怒らない…

こうして見ると、確かに同社の非常識度はザッポスのそれに勝るとも劣らない。しかしこれらはたった一つの理念から全て導きだせるものなのだ。

社員第一主義。

この一言に、全てが集約されている。

今なら私も弾言できる。

これこそが、全ての中小企業が持つべき経営理念の第一原則である、と。

「全ての企業」、ではない。

スマイル・カーブというものがある。元々は製品の上流過程と下流過程を並べて、利益率は最上流と最下流で最も高く、真中がもっとも低いというもので、エイサーの創始者スタン・シーが言い出した言葉だが、このカーブ、上下流ではなく会社規模を当てはめても実は成立し、そして誰を最重要のステイクホルダーにするべきかにも当てはまる。

会社規模であれば、「最上流」に相当するのは個人事業主ということになるし、「最下流」に相当するのは政府や多国籍企業ということになるだろう。これら最下流のプレイヤーが「社員第一主義」をとられたらたまったものではないし、JALやGMの例を持ち出すまでもなく実際生き残れない。政府ですらそうだというのは、いみじくも日本自体がその最高齢、もとい最好例となっている。これらが目指すべきは顧客第一主義で、会社の規模が大きければ大きいほどそうだと言ってよい。

それを「全ての企業がそうすべきだ」と勘違いしてしまったところに、現代の悲劇がある。こういう話がクリスマスだけではなく毎日毎晩繰り返されているのも、顧客も企業も「そういうものだ」と思い込んでいるからに他ならない。

しかし実際には、100%顧客などいう人もいなければ、24時間闘えるなどという人もいないのだ。

上流、すなわち小規模なほどプレイヤー第一主義でいくべきなのだ。

顧客第一主義は大きな奴らにまかせておけばいい。著者たちだって客としてはそうしているのだから。

本書が素晴らしいのは、これが著者の発案ではないところにある。

P. 7-8
悩み抜いた私は、1000人の経営者に体当たりで考えを乞うことを決意したのです。「経営者としてゼロからやり直そう」という崖っぷちに決意でした。
その中で、うまくいっている経営者の話には3つの共通点があることに気づきました。その共通点とは…
  1. 社員のために自分の時間を使っていること
  2. 社員についての愚痴や不満を言わない
  3. 自分の会社、自分の社員のことを楽しそうに話す

そう。著者はどうどうと盗んだのだ。そして盗んだにとどまらず、中小企業であればどこでも盗めるように本書をまとめたのだ。

"Good Designers Copy, Great Designers Steal."とはピカソの言葉だが、本書を読めば著者がやったのはCopyではなくStealであることが実感できるだろう。CopyかStealかは、実装に現れる。本書の場合、それがクラウドの活用であった。くわしくは、本書の後半を。

会社の上場に携わったものとして、著者の境遇が少しうらやましくもある。10年前には「持たぬ経営」そのものが不可能だったのだから。クラウドなどない以上、自分たちでなんとかするしかない。そのためには資金も必要で、その資金を集める手段として当時上場以外の方法はなかった。だから私は著者をうらやましいとは感じても、株式公開を後悔する気持ちは微塵もない。

しかしどうするのがベストかは、時代とともに変わる。今ではFacebook級の大企業でさえ上場しなくても資金調達できるし、そしてEC studio級の規模ならその資金そのものが不要となっている。

天の時と地の利が、そろったのである。

あとは人の和をどうするかだ。

本書の「非常識」は、まさにそれに対する答えであり、今後は「新常識」となるべきものである。いや、それでもいい足りない。本書が常識化しなければ、悲劇である。少なくとも、本書の常識を知らない中小企業経営者の元で働くべきではないし、本書の常識を知らない中小企業経営者は経営を辞めるべきだ。

究極の中小企業たる自営業者にして自分第一主義者の一人として、そう弾言しておこう。

Dan the Businessman