早川書房東方様より献本御礼。
これほどネアカでポップな終末論というのにはじめてお目にかかった。精神衛生上とてもよい。己だの日本だのの終わりなんて、大した事ないように思えてくるではないか。
本書「すべてはどのように終わるのか」、原題"How it Ends:from You to the Universe"は、S2F2な終末論。
目次- はじめに
- 第1章 それぞれの終わり これでおしまい/すべてに寿命がある/線のとぎれるところ
- 第2章 よきことはつねに流転する 死神の大鎌/確率を出し抜く/塵から塵へ
- 第3章 人類の未来 生物種の運命/わたしたちの最大の敵
- 第4章 自然選択を超えて 進化の終点/生物を超えて
- 第5章 生命の網 落ち着きのない地球/ガイア
- 第6章 生物圏への脅威 激しい雨/地球を守る/生命はウイルスで感染する
- 第7章 太陽系に生きる 水色の点/地球外の生命/彼方から来る脅威
- 第8章 太陽の終焉 星とともに生きる/地球からの脱出
- 第9章 わたしたちの住む銀河系 昔の星と未来の星/吸収合併
- 第10章 天の川の老化 色は褪せ、黒くなる/幼年期の終わり
- 第11章 宇宙の終わりかた 無からの何か/すべてのものの終わりかた
- 第12章 終わりのその先 多元宇宙に生きる/終わりから意味まで
- 用語解説 註
- 訳者あとがき
- 参考図書
- クレジット
S2F2と書いたのは、本書が「単なる」Science Fact の本ではなく、Science Fiction な本でもあり、 Speculative Fact な本でもあり Speculative Fiction な本でもあるから。著者は天文学者なので、基本は一応 Science Fact な本なのだが、「銀河ヒッチハイクガイド」から「マトリクス」まで定番のSF、とくにSF映画の引用が多くて、自然科学者的な堅苦しさが一切ない。
本書のもう一つの特徴が、スコープの広さ。"from You to the Universe"と副題にあるだけあって、その範囲は最も身近かつ切実な「わたしの死」であるヒトの個体の死から「われわれの死」たる人類の死を経て宇宙の死をさらに通り越すところまで逝く。「それぞれの死」に関してはブルーバックスにも「万物の死」や「死因辞典」があるのだけど、どちらも本書ほど幅広くない。このスケールの大きさは小松左京的なのだが、小松左京も「それぞれのスケール」に焦点を当てた作品は書いていても、「全スケールまとめて一冊」はまだないはずだ。
留意点が、一つ。本書に出てくる数字は、精度も天文学者的だ。「宇宙は水素、ヘリウム、金属の三元素からなる」というあの天文学者的なおおざっぱさは、ラムシフトが気になる人には結構こたえるかも知れない。人の細胞数一つとっても、60兆と10兆という二種類の数字が出てくるし、明らかな間違いもある。
P. 83地球上にいる人間全体の体内にある炭素を合計すると800億トンになる。
炭素だけで一人10トンも内蔵していないよね。一人あたりの炭素利用量とかだと米国でこれくらいなのだろうけど。人体内炭素の合計は、「天文学的精度」で計算しても 15 kg/人 * 50 億人 = 750億kg程度。kgとtを混同したと考えるとつじつまはあうのだけど真相はいかに。
読むだけでも楽しいのだけれど、本書はこのように「おや?」と思ったところを自分で検証するという楽しみもある。その意味で本書は「おわり」の本ではあるけれども、「はじまり」として使うのと一番おいしくいただけるかもしれない。
ごちそうさまでした、と英訳不可能な、しかし実に美しいおわりの言葉で締めることにしよう。
Dan the Mortal

『「おや?」と思ったところを自分で検証するという楽しみもある。』
800億トンには笑いました。自分で検証というのも本読みの楽しみの1つと確認させられました。僕の「楽習」が1目盛りレベルアップした心地がします。