技術評論社池本様より献本御礼。
なにこれすごい。
で、なにこの業界狭い。
「書評」にするか「紹介」にするかこれではぎりぎりの線になってしまうではないか。
こういう本が10年前にあったらなあ…
本書「小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記」は、同名のブログを書籍化したもの。現時点においてネットワーク管理の本という点において
「高校生のための文章読本」pp.208
- 良い文章とは
- 自分にしか書けないことを
- だれが読んでもわかるように書いた文章
の二条件に最も合致するのが本書である。
本書がそうであることに関する証明は、すでに「原本」たるブログを見ていただければ明らかにもほどがあるので、これ以上何を書いても蛇足ではあるのだが、立場上属人的な裏付けを蛇足をつけさせていただく。それがかえって足を引っ張るかも知れないけど。
著者について★aico 1990年3月17日生まれ。魚座AB型。 都内の大学のフランス文学科に通う3年生。(もうすぐ4年生!) (株)ディレクターズでアルバイト中。 絵を描くのが好きで,手帳に絵を描いていたところ,イラスト付きのサーバエンジニア日記を書くことになる。 ちなみに愛用の手帳はトラベラーズノートとMOLESKINE。ペンはPILOTのHI-TEC-Cの0.3のクロ。パソコンはMacBookAir。 最近買った一番高いものはOLYMPUS PEN EL-1 小さい頃のあこがれの人はドキンちゃん! 好きな食べ物はアイスクリーム(ハーゲンダッツ!)で 嫌いな食べ物はバナナ。 好きなことはお絵描き,写真,買い物,カフェ巡り。 嫌いなことは早寝早起き。
★加藤慶(かとう けい) 株式会社ディレクターズ 代表取締役 静岡出身のSSLをこよなく愛する38歳。武蔵大学経済学部卒。会計コンサル業界からIT業界に1999年に転身。ライブドアに上場前から上場廃止まで在籍していたため話のネタには困らない。 2007年にディレクターズを創業しホスティング事業を中心に活動中。
この加藤慶が主著者であるaicoの雇主にして上司、つまり黒幕なのだが、12年前の彼は、私の部下だったのだ。それも「データホテル」をやると決意させるに足りるほど重要な。
データセンターを作ると年明け早々に決めて、その年の4月に稼働させるというのは今思い出しても無茶なプロジェクトだったのだが、彼がいなければ絶対Goは出さなかっただろう。決めた時点ではzakiこと山崎徳之すらまだいなかったのだ。
これだけでも充分悪魔的なのに監修が村井純とは。日本、いや全世界のインターネット界でその名を知らねばモグリという、悪魔の中の悪魔。悪魔すぎて小悪魔は当初blogにそれと知らずに返事をしていたというのが何とも小悪魔的であるが。
そう。本書は小悪魔による悪魔予備軍のための悪魔本なのである。もちろん、ここで言う悪魔は satan ではなく daemon の方だ。彼ら悪魔なくしてインターネットは一瞬たりとも動かない。今私がこれを書けて、あなたがこれを読めるのも、彼らあってのことなのだ。
しかしそんな彼らが「表の世界」で脚光を浴びる事は滅多にない。「表」の仕事人であるアプリケーション開発者たちのスターぶりと比べるとその差はさらに引き立つ。私は表裏とも手がけるエンジニアとしては下手すると最後の世代なのだが、光が当たるのは「表」ばかり。
確かに仕事は地味である。「表」の仕事は「できればすごい」加点法で評価されるのに対して「裏」は「できなければひどい」の減点法で評価されるというのも理由としては大きいだろう。しかしそれを加味してもなお「暗い」のは、業界に悪魔はいても小悪魔がいなかったことが大きいのではないか。
しかし実際のところ、ネットワーク管理というのは「わかりづらく」はあっても「むずかしく」はないのだ。aicoも加藤も、著者紹介を見てのとおりコンピューター・サイエンスどころか理系出身ですらない。基礎さえきちんと抑えてしまえば誰でも出来るようになる。
そう、文系女子大生でも。
本書の内容の主幹部分は、著者が生まれた1990年にはすでに確立していた。確立していたからこそ私でも出来たのだし、著者にも出来た、そして多分読者にも。これがCSの学位を持つ者しか出来ないほどややこしいものであったら、インターネットが普及することはなかったと弾言、いや断言する。
それだけに、「こうすれば出来る」という解説書はすでにいくつも存在する。しかし本書を目の前にすると、これらの本に一つ大事なものが抜けていたことがわかる。一文字で言えば、それは「華」である。
出来るというだけで動ける人は、一握りしかいないのだ。ネットワーク管理者が常にソフトウェア開発者以上に人手不足だったのは、そこに理由があるのではないか。
それを考えると、本書はもう少し「今までのこと」ではなく「これからのこと」を扱って欲しかったとは思う。特に IPv6 。確かに業務の主役は、今もなお IPv4 であることは事実である。私の管理下にあるサーバーの IPv6 トラフィックは今も1%を切っている。それでも本書は IPv4 が今にも枯渇するというタイミングで上梓される以上、もう少し IPv6 の話題について触れてもよかったのではなかろうか。
それとももしかして二期狙い?
何はともあれ、本書は悪魔業界にかつてなかった華であることは事実である。悪魔の一人としてこれ以上うれしいことはない。悪魔もそうでない人も、一つでも多くの目に触れることを願わずにはいられない。
Dan the One of the Daemons
具体的にどんな中身なのかってのがないですね。
いつもある目次もないし・