産経とスポニチしか報じてないニュースなのでスルーしようと思ったのだけど…

【放射能漏れ】水の代わりに「スズで冷却を」 ウクライナの専門家 - MSN産経ニュース
チェルノブイリ原発事故被害の対策に当たっているウクライナ非常事態省の専門家作業部会は17日、東日本大震災で放射能漏れを起こした福島第1原発の原子炉冷却に水ではなく、スズなどの溶けやすい金属を使うべきだとの提案を日本政府側に伝えた。インタファクス通信が報じた

水は100度で蒸発して水素爆発の危険がある。放射性物質の拡散も減る。餅は餅屋。>チェルノブイリ対策に当たるウクライナの専門家は冷却に水ではなく、スズなどの溶けやすい金属を使うべきだとの提案 http://bit.ly/gQje4Yless than a minute ago via Paapeejp

ひろゆきよ、おまえもか!

融点505.08K=231.93C、沸点2875K=2601.85。たしかにこれだけ見ればスズは水より優れた冷却剤に見えるかもしれない。炉心はそれで冷えるかも知れない。

しかし炉の冷却というのは、それで話は終わらない。炉の外まで熱を出さなければ意味がないのだ。

上の図を見ての通り、沸騰水型原子炉(BWR)の熱というのは、蒸気となってタービンを回し、その蒸気が復水器(condenser)で冷やされることで外に取り出される。要するに、炉内の熱は気相の水が炉の外に出て、液相の水が戻ることで外に出る。そこにスズが来たらどうなるか。

固着する。つまり目詰まりする。

要するに、状態はさらに悪化するという事だ。

それを防ぐために熱交換系統を保温するなんて、それこそ本末転倒だ。

たしかにチェルノブイリを含むウクライナの黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉であれば、冷却水は圧力管の中を走り、燃料に直接触れていないのでスズをぶちこむことも可能なのかも知れないが、BWRでは水は燃料に直接触れるのだ。

もっとも、溶融金属で炉心を冷やすことそのものは、突拍子もないことではない。そういう炉は実は日本にもある。もんじゅだ。

もんじゅ - Wikipedia
もんじゅは、福井県敦賀市にある日本原子力研究開発機構の熱出力71.4万kWのナトリウム冷却高速中性子型増殖炉である

もんじゅに限らず高速増殖炉では、炉心の冷却に水を使えない。中性子を減速しすぎてしまうためだ。そこでもんじゅでは金属ナトリウムを冷却剤に使っていたのだが、その扱いの難しさが事故の原因ともなり、高速増殖炉実用化をはばんでいる。原発大国フランスすら手を引いてしまった。

それ以外にも炉心に直接触れる冷却剤、つまり一次冷却剤としては溶融塩などもあるが、いずれにせよ原子炉の設計というのは特定の一次冷却剤を使うことを大前提に設計されている。いくら非常時だからといって、「こっちの方が冷えるぞ」とばかり他のものをつっこんでも事故が大事故になるだけだ。いや大事故が巨大事故か。

本来は海水だって「ほかのもの」ではある。そのおかげで復水器や熱交換器を痛める可能性だって否定できない。それでも冷媒がそこで固着する可能性はずっと少ないはずだ。

大事なことなので繰り返す。

一次冷却剤に熱を移すだけではだめなのだ。

その一次冷却剤の熱をさらに復水器なり熱交換器なりで取り出して、最終的に外部に取り出さなければ。

日本の原発がなぜ全て沿岸にあるか。海外の内陸部にある原発に、なぜ巨大な冷却塔が併設されているのか、それが理由。熱の最後の行き場所は、空か海なのだ。

それにしても原子炉を冷やすのも大変だが、頭を冷やすのはそれに劣らぬ、いやそれ以上の難行なのかも知れない。

Dan the Reacting Man