というわけで反論の反論。オワコン=終わったコンストラクション、ね。

総論としては

と同じなのだけど、もう少し事例と数字が欲しかったので。

フランスの原発は世界一ぃ…だぶついている?

原発といえば成功例として必ず上がるフランス。同記事でももちろん紹介されている。Wikipedia(en)でも、こんな感じ。

Nuclear power in France - Wikipedia, the free encyclopedia
France is also the world's largest net exporter of electric power, exporting 18% of its total production (about 100 TWh) to Italy, the Netherlands, Belgium, Britain, and Germany, and its electricity cost is among the lowest in Europe.[1][2] France's nuclear power industry has been called "a success story" that has put the nation "ahead of the world" in terms of providing cheap, CO2-free energy.
[抄訳]フランスは世界最大の電力輸出国であり、総発電量の18%(100TWh = 1000億kWh)を、イタリア、オランダ、イギリス、ドイツなどに輸出している。電気代は欧州で最安の部類であり、フランスの電力産業は安価でCO2フリーな電力を供給している点で「サクセスストーリ」の一つに数えられている。

しかし、それに引き続くパラグラフには、こうある。

However, France's nuclear reactors are mainly used in load-following mode and some reactors close on weekends because there is no market for the electricity.[4][5] This means that the capacity factor is low by world standards, which is not an ideal economic situation for nuclear plants.
[抄訳]しかし、フランスの原子炉は需要追従モードで運転されており、原子炉のいくつかは電力需要のない週末に運転を休止している。そのため設備利用率は世界標準より低めであり、原発にとって経済的に理想とはいえない。

え?週末に止めている?需要追従モードなのは知っていたけど、それは私も知らなかった。

ちなみに日本の原発は、一度運転しはじめたら需要関係なくフル操業するのが基本。

以上は関電の例だけど、なぜ出力が100%を超しているかの説明はこちら。

定格熱出力一定運転とは
定格熱出力一定運転では、冬季のように海水温度が低い時期の発電効率が良くなり、発生する電気が増加するため、年間平均2%程度の発電電力量の増加が期待されます。

裏を返すと、夏場は冷却効率が落ちるということ。

フランスの原発も例外ではない。

Nuclear Engineering International
Eleven of these 15 inland plants (32 reactors) have cooling towers, using evaporative cooling, the others using river or lake water directly. With regulatory constraints on the temperature increase in receiving waters, this means that in very hot summers, generation output may be limited.
内陸部の15発電所のうち11(32炉)には冷却塔が設置され、蒸散による冷却が行われており、残りは河川の水で直接冷却している。そのため、これらで用いられている水の温度が上昇すると、発電量も制限されることとなる。

実際2005年にはそうなりかけたそうだ。ちなみに日本の原発は全て沿岸にあって、最終的に海水で冷却しているのはご承知の通り。でも海外だと冷却塔が原発のシンボルみたいになっている。The Simpsonsでもそう。

各国の電力消費[2006年]

国名一人当たり電力消費[kWh/年]
US14,470
CA18,177
UK6,699
IT6,093
FR8,370
DE7,525
RU6,878
JP8,722
KR8,365
CN2,176
HK6,557
SG8,796

世界の統計2010第6章より

日本の一人当たり電力消費量>フランスの一人当たり電力消費量

「じゃあ省電力余地はないのか?」「日本ってエネルギーあたりのGDPが世界一高い国の一つだけどどうよ」ということで調べてみて意外だったのが、こちら。とりあえずG8+アジアの先進諸国を抜き出してみた。

アメリカ、カナダは論外としても、ドイツはおろかフランスより多いのはちょっと意外。天然ガスの消費量がまだ少ないこと、エアコンの普及率がずっと高いことを加味しても、もう少しは頑張れそうな数字ではある。仮にピーク電力も全電力消費に比例するとすると、夏場ピークの6000万kWはドイツ並みになったとして5177万kw、イギリス並みだと4608万kW。計画停電回避が視野に入ってくる。

大事なことなので繰り返すけど

今欲しいのは

404 Blog Not Found:東電が原子力発電所より太陽光発電所を作るべき理由
  1. 場所をなるべく選ばず
  2. 簡単に設置できて
  3. ピーク需要をカバーする

で、原発はこれの正反対。立地の選定に10年、工期5年。それでいてピーク需要をカバーできないのは、フランスの事例でも明らか。

本当のコスト>貨幣化可能コスト

「コスト」という言葉には本来「かかる手間暇の全て」が含まれているはずなのだけど、それを全て貨幣化できると思い込んでいる人は少なくない。保険料や慰謝料の算定ではそれを半ば無理矢理にしてはいるのだけど、失われたものはそれで「チャラ」になったりはしないししてもいけない。私の実家が20年前に全焼した時、火災保険は片付け費用まで含めて満額出たけれど、それは明日への礎にはなっても今日までの日々を取り戻すことにはならなかったし、実際のところ再建した家の頭金に全て消えた。

原発は最も廉価な発電方法: ニュースの社会科学的な裏側
今回の災害で、福島第一原発が受けた被害は少なくない。住民の集団避難などの影響も大きい。放射能漏れもあった。しかし数百年に一度の規模の災害で、最も旧型の原子炉が、健康被害が無い程度の放射能漏れを引き起こしたに過ぎない。原子力保安委員が、津波を考えて安全評価をしていたかは疑問はある。しかし、それと原子力開発の是非は別だ。

というのであれば、以下の遺体をぜひ収容して欲しい。

河北新報 東北のニュース/放射線量が高く遺体収容できず 福島・大熊
福島県警は大熊町で東日本大震災の死者とみられる男性の1遺体を収容しようとしたが、遺体の放射線量が高いため危険と判断し、付近に安置して撤収した。警察庁が28日、明らかにした。

その上で遺族に「やはり原発は必要です」と言って説得して欲しい。必要というのであればそれこそ欠かす事のできないコストではないか。実際今回の震災では、原発に「アテンション」を取られすぎていると私自身を含め強く感じている。本当にアテンションが必要な膨大な被災地がそれでスルーされてしまっている。それだって立派な、かつ回復不能な、被害ではないのか?

それじゃ原発は全てオワコンなのか?

希望がないわけでも、ない。

たとえば高温ガス炉。

「停電したら冷やせない」既存の軽水炉と違って、「停電しても冷える」というのは頼もしいし、作動流体が高温な分熱効率も高く、熱でタービンを回すだけではなく水素を製造するという目的に使えるのもおたく心をそそられる。

しかしこのHTTRも、すぐ実用炉を作れるという段階にはまだない。今後の運転計画によると、現在やっと第二期中期計画(限界性能試験)に入ったところのようだ。

いずれにせよ

今から原発を建てても、この夏には間に合わない。既存のものを動かすのがやっとである。とりあえずは以下を見ながらどうするかを考える事にしよう。

Dan the One of 40+ Million Customers Thereof

追記: 以下の資料を発見。「原発最安説は国が流布したデマ」は言い過ぎにしても、「技術的にというよいり政策的にえこひいきされてきた」というのは妥当と言えそうだ。