東京図書の担当編集者平塚様より献本御礼。
ついに出た。やっと出た。震災で紙を変更してまで出してくれたことに改めて頭が下がる思い。
オビより[大変そう,面白そう]=よくわかる
量子力学に立ちふさがる、概念の壁と数学の壁。この壁を踏破するのに著者以上のシェルパがいるだろうか。トンネル効果はきっとあなたにもおとずれる。
本書「よくわかる量子力学」は、「よくわかる電磁気学」に続く、@irobutsu理学第二弾。
目次- 第0章 量子力学の門を叩く 古典力学では、ダメな理由
- 第1章 光の波動性と粒子性
- 第2章 物質の粒子性と波動性
- 第3章 波の重ね合わせと不確定性関係
- 第4章 シュレーディンガー方程式と波動関数
- 第5章 物理量と期待値
- 第6章 演算子と物理量
- 第7章 「状態ベクトル」としての波動関数
- 第8章 分散と不確定性関係
- 第9章 1 次元の簡単なポテンシャル内の粒子
- 第10章 1 次元の束縛状態と散乱
- 第11章 1 次元調和振動子
- 第12章 3 次元のシュレーディンガー方程式
- 第13章 水素原子
- おわりに
- 付録A (量子力学を学習するための)解析力学の復習
- 付録B フーリエ変換
- 付録C 練習問題のヒント
- 付録D 練習問題の解答
- 索引
A .C. Clarkeは「充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない」という言葉を遺した。多くの履修者にとって、その物理に魔法を感じる第一歩が電磁気学であり、そしてもっとも魔法じみているのが量子力学ではないだろうか。
まず、直感が通用しない。これが古典力学であれば、「力とは質量に加速度をかけたものである」といわれてもなんとなくピンと来る。ガリレオの落下実験を理科室で再現してみた人も少なくないはずだ。電磁気学はそれよりずっと魔法じみているけれど、それでもやはり実験や工作を通して「あ、たしかにそうなっている」を体感する機会も少なくない。
ところが量子力学となると、それがさっぱり通用しない。なぜ電子は(電波を出しつつ)原子核に落っこちてしまわないのか?なんで黒体放射はあんなへんてこりんなカーブになるのか?シュレーディンガーの猫は生きているのか死んでいるのか?
この「概念の壁」だけでも厳しいのに、「数学の壁」がさらに立ちはだかる。前世紀の物理学のもう一つの大成果、相対論のE = mc2 なら「イミフでも誰でも読める」のに、

ってなんぞこれ?Hってなにこれえっち!?
しかし、量子力学ほど我々の役に立ってくれている物理学というのも、またないのである。役立ち度から行けば相対論よりずっとそう。なぜ昼の空が青く、夜の空が暗いのか教えてくれるのも量子力学なら、私がこうして記事を書き、あなたがこうしてPCなりMacなりケータイなりスマフォなりで記事を読めるのも量子力学のおかげ。相対論が実地で役に立っているのは、原子炉の中とかGPS衛星とかずっと「エキストリーム」な世界であって、どちらが身近かといえば圧倒的に量子力学なのだ。
といっても、本書で、というより学部で習う量子力学の範囲で「わかる」のは、水素原子まで。こんなに大変なのにやっと水素原子一個ですかorzという感じであるが、「きちんと」やるとは実際そういうことである。
本書を読了して、私は中学生の時の八ヶ岳登山を思い出した。田舎の中学生はそういうことをやるのである。少なくとも四半世紀前はそういうことをやっていた。なぜ登校拒否部長だった私がそんなことにつきあったのか今となってはまるで思い出せないのであるが、それはさておき1/3は健康上の理由その他ではじめから参加せず、1/3は途中で下山という、とても義務教育の範疇でやるとは思えないイベントに私は参加し、完走した。
きちんとつきそわれれば中坊でも何とか走破できる山。それでいて毎年のように死人が出る山。非専門家にとっての量子力学の難易度というのは、そんな感じではなかろうか。
irobutsu理学における「よくわかる」の真骨頂は、そこにある。本当に一緒に山に上るのである。他の「よくわかる」が実際には「よくわかったつもり」になるに留まっているのとはそこが根本的に異なる。「よくわかったつもり」が無価値というわけではない。「わかったつもり」にだって価値はある。リフトやロープウェイやヘリコプターで山頂まで上がって絶景を楽しむのも悪くはない。しかしそれは一歩一歩山を登るのとは、やはり別の体験なのだ。
概念と数学という二つの壁を踏破して、ぜひこの絶景を堪能していただきたい。最高のシェルパとともに。
Dan the Quantum Blogger
代わりに、コメントにURLを。
量子力学関係記事に関する感想です⇒ Newton 2011年4月号