オトバンク上田様より献本御礼。
実業之日本社も新書を始めたのか。いいね!
ただでさえ周期律表萌えなところにもってきて、東日本大震災のおかげで元素本を読み返すことが増えた。そんな私の目から見ても、「ビジネス視点で元素を見る」という本書の視点は新鮮かつ有益だった。
そう。ビジネスにおいても、元素(element)というのはすべての元(element)なのだ。
強引なたとえだが、「元素111の新知識」が「クックブック」なら、本書「いまだから知りたい 元素と周期表の世界」は「リャマ本」に相当する。読む順番は本書が先だ。
目次- 第1章 元素と周期表のしくみ
- 第2章 宇宙における元素合成
- 第3章 注目されるレアメタル(レアメタルやレアアースとは何か?
- 第4章 わかりやすい元素大図解
元素の新書といえば、やはり筆頭は「元素111の新知識」。なんといっても全ての元素を一項目としているのは大きく、本書を含め数多の元素本が同書を種本としているのもうなずける。同書なくして元素本は語れない。
その一方で、同書はやはり「すで知っている人」向けである。各元素のことはわかっても、元素どおしのつながりはわかりにくい、というより知っていることが前提となっている。Liの下がNa、K、Rb、Cs、Frで、Fの下がCl、Br、I、Atとなっていることぐらいは同書の読者にとっては「当然」なのである。
しかしなぜビッグバンではLiまでしか出来ないのか、他の元素がどうやってできたのかということは同書を見てもわからない。同じブルーバックスだとそのあたりは「宇宙核物理学入門」に詳しいが、やはり元素のことだし一冊でまとめてさわりだけでも知っておきたいではないか。
本書の前半が、まさにその不満に答えてくれる。トリプルアルファ反応という言葉にビジネス向け新書に出会えるなんて思わなかったよ。なんじゃそりゃ?ですって!これがなければあなたも私も存在しなかったのですぞ。
とはいえ、「元素111の新知識」をはじめ、ほとんどの元素本が核物理をスルーするかほんのおさわり程度しか扱っていないのは別に手抜きをしているわけではない。いったん出来てしまえば、元素の性質を決めるのは原子核ではなく電子配置。「核物理は別の本で」というアプローチは、「事情通」であれば納得が行く。がたとえば大統領に説明するのにそれではちょっと困る。本書はこの第二章だけでも「科学的」に買いだ。
しかし本書の主題は、やはり第3章と第4章、つまり「技術的」な部分にある。その元素は、われわれの生活にとってどんな役割を果たしているのか。「元素111の新知識」は「科学的」な部分、特に生化学の部分は強いが、工業的、商業的な部分は弱いし古い。本書の類書にない強みはまさにそこで、マグネシウム燃料も超高純度鉄も紹介している。
もちろんそういう「おなじみの元素の新しい活用」だけではなく「存在ぐらいしか知られていなかった元素の思わぬ利用」も積極的に取り上げている。たとえばスカンジウム。名前すら知らない方の方が多いかもしれないが、これを固体電解質燃料電池(SOFC)に使うと動作温度を下げられる。ネオジムが磁石にもたらしたような革命が燃料電池におきるかもしれない。
300ページ近くで目次付き。これで税込み1,000円ぽっきりって安すぎないか?ハードカバー一冊の値段でこれと「元素111の新知識」が手に入る。この組み合わせは元素新書として現状最強だ。
さらに余裕のある方は、こちらで腕試ししてみるのもよいだろう。こちらも献本いただいたもの。
「萌え」元素本としてはベストの「元素生活」の姉妹本なのだが、本書と「元素111の新知識」を熟読した人なら、レベル5も余裕でいけるだろう。
Dan the Elementary Blogger
これからの時代、世界の経済と社会の生産性をもっともっとあげるためには、あらゆる元素を使えるだけ使い倒す。あらゆる遺伝資源を使えるだけ使い倒す。これしかありません。それ抜きには、中国やインドやアフリカで苦しむ最貧層の人々に人間らしい生き方を享受してもらうすべはないんです。社会の問題は技術の問題でもあり、技術の問題は社会の問題でもあります。
高分子や錯体やガラスやセラミックスにも更なるブレークスルーがまだまだほしいものです。