盟友宋文洲の大人気メルマガ「宋メール」連載コラムの第五回目をこちらにも掲載します。

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  • 衣食足りて礼節を知る

    小飼弾
    http://blog.livedoor.jp/dankogai/

    東日本大震災のおかげで日本のことばかり話していました。折角の宋メールですし中国の話をしましょう。

    残念ながら日本における中国のイメージというのは芳しいとはいえません。中国製というとヤスモノでパチモノという印象は、中国人ですら否定しないか困ったものです。 Honda には Hongda 、iPad には aPad …中国ではこうしたものを「山塞」と呼ぶそうですが、この点において中国は世界一の大国だというのは疑いようがありません。

    しかしよく考えてみれば、中国でも広汽本田汽車が本物のHondaを作っていますし、iPadに至っては(部品はとにかく最終組み立て地ベースでは)100%中国製。中国人に本物を作る能力がないわけがないことは、このことからも明らかです。なのになぜ山塞だらけになるのか?

    答えは単純です。まだ本物にこだわれるだけの余裕がないのです。

    中国のGDPは昨年日本のそれを抜きました。しかし中国の人口は13億人で日本の10倍。一人あたりにしたらまだ10分の1です。CO2排出量はそれより前に米国を抜いて世界一。2007年時点で日本のおよそ5倍なので、一人当たりにしたら日本のおよそ半分ですが、それは中国人が日本人と同額稼ぐのに、CO2を五倍も排出しているということを意味します。

    http://daily-ondanka.com/basic/data_05.html

    もしこのまま中国の一人当たりGDPを日本なみにしようとしたら一体どうなるのか。資源がいくらあっても足りませんよね。

    だからといって、「地球のために中国人は自制しろ」なんて資格が誰にあるでしょう?京都議定書を採択した会議で「車を二台持っているあなたがたが、我々にはバスにすら乗るなと言うのか?」と言い放った中国代表に返す言葉を少なくとも私は持っていません。

    かといって、中国がかつて日本や韓国や台湾がそうしたように「その時点の欧米をまねて追いつく」というやり方は通用しません。環境負荷においてすでに中国は米国を抜いて世界一。中国が先進国となるためには、今日先進国が導入している先進技術以上の技術が必要なのです。魔法抜きでそんなことは可能なのでしょうか?

    「脱、「ひとり勝ち」文明論」はそれが可能だと説きます。

    http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51219255.html

    エネルギーは太陽電池で、クルマは電気自動車で、そして住まいは省エネ家電で。うち実現しているのは最後のみですが、残り二つもめどは立っています。そして今回の震災で残り二つの実用化は日本でも待ったなしになった感があります。

    「衣食足りて礼節を知る」というのは、春秋時代、斉の桓公を覇者にした宰相、管仲の言葉。食に関しては中国の一人当たりのカロリーは日本を既に上回ってはいますが、春秋時代であれば衣食だけ足りても、今は21世紀。栄辱を知るには電力も電気製品も欠かせません。中国のGDPが米国のそれを抜く頃には、そうなっているのではないでしょうか。それはそれほど遠い未来の話ではありませんし、それが世界にとっても日本にとっても好都合な真実だと私はみています。

    Dan the Contributing Writer Thereof