出版社より献本御礼。

これ、「フクシマ」抜きでもっと早く出版されるべきだった。

放射能に縁がある--ということは実は全ての人々--が手元においておくべき一冊。価格も千円未満だし。

本書「放射線のひみつ」は、東大病院放射線治療チーム、@team_nakagawa の中の人々の真中の人による、放射線を正しく--そしてあえて語弊リスクをとるのであれば「楽に楽しく」--怖がるための一冊。寄藤文平イラストのおかげでそう仕上がっている。

目次
まえがき──原発事故と放射線
第一章──言葉と単位、これだけは!
1. 放射線を語るための「言葉」から始めましょう。
2. 「被ばく(被曝)」は「被爆」ではありません。
3. 「放射能がやって来る!」はまちがいです。
4. 放射線・放射能・放射性物質──ロウソクの話。
5. 「シーベルト」は放射線が人間の体に与える影響を示す単位。
6. 「ミリ」「マイクロ」は「千分の1」「百万分の1」を表します。
7. 「シーベルト/シーベルト毎時」は「距離/速度」の関係。
8. 放射線の単位の使い分け──「ベクレル」と「グレイ」。
9. 放射線が変われば、人体への影響に違いが出てきます。
10. 100~150ミリシーベルト(積算)がリスク判断の基準です。
第二章 放射線を「正しく怖がる」
11. 放射線は身の回りにあります。
12. 放射線は、ありなし(白黒)ではなく、強さと量が問題です。
13. 放射線をあびる「範囲」も大事です──局所被ばくと全身被ばく。
14. 放射線の影響は、「花粉」をイメージするとわかりやすい。
15. 「花粉」と同じで、放射線の量と飛ぶ方向が大事。
16. 放射線の防護対策は「花粉症対策」に似ています。
17. 38億年間、生物は放射線の中で生きてきました。
18. 放射線により遺伝子がキズを受ける──確率的影響。
19. 放射線のダメージで細胞が死ぬ──確定的影響。
20. 発がんの仕組みについて──細胞のコピーミス。
第三章 ニュースから読み取るポイント
21. 「いつ・どこで・どんなものが・どの期間」に注目する。
22. 「100ミリシーベルトで0.5%」のとらえ方 その1
23. 「100ミリシーベルトで0.5%」のとらえ方 その2
24. 私たちの生活はリスクに満ちている
25. 発がんリスクの代表例──甲状腺がんの基礎知識。
26. チェルノブイリ、スリーマイル島で起きた健康被害。
27. がんの放射線治療にみる放射線の影響。
28. 飲み物、食べ物、そして“土壌”の影響──外部被ばく+内部被ばく。
29. 妊婦と乳幼児への影響、それ以外の成人への影響。
30. 安全性の考え方──基準値は何のため?
大切ですが、少しむずかしい解説 放射線防護の考え方
飯舘村の思想
おわりに
付録:
覚えておきたい数字と単位
覚えておきたい計算方法

今そこにあるリスクに対して、我々がとれる方法というのは二通りあると私は考えている。一つはリスクの存在そのものを「知らなかった」ですませること。養老孟司もこのアプローチを勧めている。「健康診断のおかげでかえって不安になるならスルーしよう」。

しかし困ったことに、この方法は一度知ってしまうと使えない。残念ながら我々の脳というのは電脳のように記憶消去ができないのだ。それではどうするか。

「正しく知る」しか方法はないではないか。

さもなければ、そこにあるリスクそのものではなく、そのリスクに対する恐怖で我々は傷つき、そして死ぬのだから。

「福島原発の事故で放射性物質がばらまかれた」ことを、もう我々は知ってしまった。

しかしそのばらまかれた放射性物質が我々にどれだけのリスクをもたらすか。知られていないのはそこだ。

その意味で、2011年03月11日以降の日本人はガンを告知されたばかりの人に似ている。

あとがき
がんは、日本人にとって、最大のリスクになっていると思います。2人に1人が、がんになると言いましたが、タバコ、お酒、偏った食事、運動不足などの結果、日本人男性の6割以上が、生涯に一つ以上のがんになります。しかし、私はがんになった患者さんは「格上の人間」だと思っています。
今や、がんの半分以上は完治しますから、「不治の病」ではありません。しかし、いまだに「死の病」といったイメージが定着したままです。ゼロリスク社会の中で、がん患者さんだけは、「自分の死」という最大のリスクを意識せざるを得ません。リスクなどないと「勘違い」している一般市民とがん患者の「死生観」を比較する為の調査研究をしたことがあります。その結果、がん患者さんは、「あの世がある」、「死んでも生まれ変わる」などと考えない反面、「生きる意義」を感じ、「使命感」を持っていることがわかりました。リスクを意識することが、「生きる意味を深める」ことにつながるのではないかと感じました。

その意味で、「フクシマ」は我々を「格上の人間」にする絶好の機会なのかも知れない。

Dan the Man at Risk