編集部より献本御礼。なぜか二冊別々に来た。

本書のタイトル、実は「釣り」である。

iPhoneがiPadへの「釣り」であったのと同じように。

本書の主題は、iCloudでもクラウドでもない。

ウェブ進化論」で言うところの、「こちら側」の復権の話なのだ。

本書「iCloudとクラウドメディアの夜明け」の本当のタイトルは、「Sonyはどうするべきだったか」ではないのか。あるいは「なぜSonyはAppleになれなかったか」。

著者の答えははっきりしている。「こちら側に立たなかった」からだ。

「ウェブ進化論」の主張を乱暴にまとめると、こうなるだろう。

「事件は『こちら側』で起きてるんじゃない。『あちら側』で起きてるんだ!」

注目すべき技術革新はもう『あちら側』、すなわちサーバーサイドに移ってしまって、『こちら側』、すなわちクライアントサイドはそれをブラウザーという窓を通して眺めているだけなのだと。

Appleは、それがとんでもない勘違い、というより思い上がりであったことをiPhoneとiPadで証明した。

真の現場は、やはり「こちら側」だったのだ。

「アップル、グーグル、マイクロソフト クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」で、岡嶋裕史はこう言っている。

クラウドへ至る、最も見晴らしのよい窓は、彼らが作っている。

彼らとは、もちろんAppleを指す。

どんなに「あちら側」で技術革新が起ころうとも、「こちら側」なくしてそれを手に取ることはできない。

あまりに当たり前すぎて、梅田望夫も見過ごしてしまった事実。

しかしそれを見過ごしたのは、「おれたち」「こちら側」の住民も同様だ。

悲しいかな、「おれたち」は「それ」を目にするまで、自分たちが欲しかったのが「それ」であることがわからないのだから。

そのことを、 Steve Jobs ほど知っていた人はいない。

本書 PP.53-54
ジョブズはこれまで、製品の利用者側から見たときに"こちら側"と見なされるやり方を、おそらくは自身も意識せずに続けて来た。アップル創業時、リサ、マッキントッシュの立ち上げ、ネクスト、ピクサー…

その極めつけが、iPhoneとiPad。いや、iPhoneを出してからiPadを出したこと。

Apple CEO Steve Jobs at D8: The Full, Uncut Interview - Peter Kafka - D8 - AllThingsD

最初から最後まで耳をダンボにして聴くべき一時間半のロングインタビューなのだが、一番注目して欲しいのは37分20秒あたり。

I actually started the tablet first.

名コメディアンが自分では滅多に笑わないのと同様、名プレゼンターというのは滅多に「ドヤ顔」をしないものだが、そのJobsでさえ隠せないほどの「してやったり」ぶり。

しかしそれを知ってたのは、Jobsだけなのだろうか?

もしもジョブズがいなくなったら・・・ ≪ maclalala2
Jobs: Oh no I wish I did. No, you see you can’t. If you want to hire great people and have them stay working for you, you have to let them make a lot of decisions and you have to, you have to be run by ideas, not hierarchy. The best ideas have to win, otherwise good people don’t stay.

ひ孫引き失礼。しかし孫引きしたmaclalala2の日本語がここに関してはダメなので、以下に拙訳を示す。

Jobs: そんなことはない。そう出来たらいいのだけど、そんなこと出来るわけないのはわかるよね。すごい人々を雇って、一緒に働いてもらおうとしたら、重要な決定の多くを彼らに任せなければならないし、上下関係ではなくアイディアで勝負しなければならない。最高のアイディアが勝つようにしなければ、すごい人々は留まってくれない。

「一番優れたアイデアが勝つのだ」が誤訳。放っといてもそうなるのであれば、今頃Appleの立場にいたのはSonyであったはずだ。

一番優れたアイディアが、会社という環境の中で生き延びるのは難しい。

Sony Reader一つとっても、いかに「一番あたりさわりのないアイディア」が強いかが見てとれるではないか。

それでは一番優れたアイデアとは、一体なんだろうか。

「こちら側」の人々に、最も多くの利益をもたらすアイデアではないのか?

著者は問う。「ソニーは"どちら側"のブランドか」、と。

ATRACにOpenMG…近年のSonyの製品は、明らかに「あちら側」の「大人の事情」に配慮、いや流されたものだった。それが「こちら側」の「デジタルドリームキッズ」に対する裏切りでなくて、なんなのだろう。

「こちら側」を捨てることを決意したHPはとにかく、少なくともSonyは自問する必要があるのではないか?

自分たちは、どちら側に拠り立つのか、を。

Dan the One of "Nearsiders"