オライリー矢野様より献本御礼。
以前紹介した「まりか先生の実験キッチン」や「小学生のキッチンでおやつマジック」が「料理で科学を学ぼう」という本なら、本書はその逆「科学で料理をしよう」という一冊。これがありそうでなかった。
本書「Cooking for Geeks:Real Science, Great Hacks, and Good Food」の味を知るには、やはりレシピを試食していただくのが一番いいだろう。
P. 246ティム・オライリーのジャム作りのコツ
ティムによれば、ジャム作りには二つの秘密があるらしい。この二点を心に留めておけば、風味に関して自由に実験できるはずだ。最適化する変数は1個しか残っていないのだから。
- ポモナのユニバーサルペクチンのような、低メトキシルペクチンを使うこと。ゲル化するのに砂糖を必要とする普通のペクチンとは違って、ポモナのペクチンはカルシウムによってゲル化する。これによって基本的に変数をひとつ除外できる。つまり、味だけ考えて砂糖の量を決められるのだ。
- 作り始める前に、冷凍庫にスプーンを数本放り込んでおく。ジャムを作っているとき、熱いジャムを冷たいスプーンに落として冷ますことができるし、うまくゲル化しているかどうかもわかる。
まさに、ギーク料理。
右のような感想を抱く人もいるかもしれない。
しかしよく考えてみてほしい。もし我々が効率厨でなかったら、どうなっていたか。
水道も食洗機も電子レンジもコンビニもなく、水と食糧の確保に一生を費やす…我々は今でも、ほらあなに住んでたんじゃないかな。
むしろ不思議なのは、料理ほど我々が身近に行う科学もない一方で、料理ほど保守的な生活習慣もないということ。このあたりの詳しい考察は「食べる人類誌」をひも解いていただくとして、その理由の一つは、料理の失敗は時にまた致命的なことかも知れない。フグを挙げるまでもなく。
本書はこの点においても巷の料理本とは一線を画している。本書ほど味にとどまらず安全性にも言及している料理本を私は見たことがない。
とはいえ料理の世界はあまりに広い。400ページ、目次完備の本書にも結構「抜け」はある。本書で残念というより意外だったのは、Microwave Oven = 電子レンジに関する言及が皆無だったこと。本書のテーマでこれが出てこないというのは、現代のPC論においてiPadが出てこないぐらい私には違和感があった。
とはいえ「内側から過熱する、それまで全くありえなかった調理器具」に関する本はそれのみで一冊が成立するテーマであるはずなので、続編としてぜひやっていただきたい。
もう一つ期待したい続編が、"Industrial Cooking"。キッチンでの料理と食品工場での調理は似ても似つかないのに、それでもきちんと出来上がる。THE MAKINGでも一番登場するのが食品工場で、これがいくら見ても見飽きない。
言語を持つ動物もいる。道具を使う動物もいる。しかし料理までする動物は、今のところ我々しかいないようだ。そんな身近で重要なテーマをスルーしてきたなんて、O'Reillyにしては、ずいぶんと手をつけるのが遅かったじゃないか。しかし空腹は最高の調味料ともいう。本書に関して、それは正しい。
あなたもぜひ一口。
Dan the Hungry
目次 - O'Reilly Japan - Cooking for Geeks より- まえがき
- 1.ハロー、キッチン!
- ハッカーのように考える
- 自分のために作る料理
- 人のために作る料理
- 2.キッチンの初期化
- キッチンへのアプローチ
- キッチン用品
- キッチンの整理
- 3.入力の選択:風味と食材
- 匂い+味=風味
- 味:苦味、塩味、酸味、甘味、うま味、その他
- 適応と実験の手法
- 地域的・伝統的な手法
- 季節的な手法
- 解析的な手法
- 4.時間と温度:料理の主要変数
- 調理=時間×温度
- 食中毒とその予防法
- 調理における重要な温度
- 5.空気:焼き菓子作りの重要変数
- グルテン
- 生物学的な方法
- 化学的な方法
- 機械的な方法
- 6.食品添加物の使い方
- 伝統的な食品添加物
- 工業生産された化学物質
- 7.ハードウェアで遊ぶ
- 真空調理法
- 業務用のハードウェアとテクニック
- [付録]アレルギーと料理
- 著者あとがき
- 訳者あとがき
- 索引
- レシピ
- 朝食
- 飲み物
- パン
- 前菜と付け合せ
- サラダ
- スープ
- ソースとマリネ
- メインディッシュ
- デザート
- 料理の部品と材料
- インタビュー
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