出版社より献本御礼。

今やジョブズ本の数は、ジョブズ復帰前のMacのラインアップに匹敵するほど溢れているし、アインシュタインの伝記が今もなお書かれているのと同じ理由で今後も出続けるのだろうけど、「手元に三冊だけ残せ」と言われたら、私は本書を含める。一冊はもちろん「正伝」、"Steve Jobs"(といっても日本語版は上下分冊だけど)。もう一冊は留保。

本書「スティーブ・ジョブズは何を遺したのか」は、日本一にして世界有数の Apple Watcher である林信行監修による、Jobs追悼本。「スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン」にあやかって、本entryでは本書を推す理由を三つだけあげる。

一つは、「正伝」のグラフィックスが圧倒的に足りないこと。版権の関係で日本語版ではさらに少ない。あくまで人物が主題である以上それはそれでよいのだが、しかし「百聞は一見に如かず」という点でJobsの右に出るものもほとんどいない(いるのか?私は知らない)。Jobsが社会科なら「正伝」は教科書で本書は地図に相当する。

美麗さという点では「The History of Jobs & Apple」もなかなかのものだが、同書はどうしても「MacLife号外」という感をまぬがれず、焦点もMac、それもOS X以前のMacに当たりがちなのに対し、本書はMacをきちんととりあげつつも、しかし今やAppleの売上の3/4を占めるiPod/iPhone/iPadを「正しい比率で」扱っている点でリードしている。

次に、日本語の本でありながら英語が「きちんと」使われていること。単に正しいというのではなく、Appleの広報にダメ出しさせたのではないかというぐらい簡潔で優美。「作品」を"His Fruits"としたところなど実に「実事」だ。

そして最後に -- last but not least -- あげておきたいのが、本書の価格。

404 Blog Not Found:A Figure Hires an A+ Biographer - 書評 - Steve Jobs
本書は内容に留まらず、上梓のタイミングまでApple的だ。日本語版の価格が現在のApple的ではなく初代Macの頃のApple的なことに私としても言いたい事はあるけれど、内容に関しては何を言っても蛇足になってしまう。

980円。「正伝」がなし得なかった「現在のApple的」価格を、本書は見事に実現している。これで利幅までApple的だったら驚く他ないが。

冒頭に「あと一冊は保留」と書いたが、そこは本よりも作品を持ってくるべきではないか。Jobsの「遺品」は静物ではない以上、やはり「動かしてみないと」語り得ない。まだ一つも持っていない人には、iPod Touchを推しておく。英語版の「正伝」もそれを通して読むことが出来るし。

Don't quote him, disagree with him, glorify or vilify him without it!

Dan the Man with a Houseful of His Fruits