出版社より献本御礼。

日本の企業に必要なのは、一人のSteve Jobsではなく百人の原田泳幸なのかも知れない。御社が

  1. 看板製品を持ち
  2. 創業者社長がもういない、あるいはこれから去る

のであれば、必要なのはこういう社長である。

本書「勝ち続ける経営 日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論」は、タイトルだけであれば今年のワースト1だと弾言する。あまり凡庸なので本Entryの題名は裏表紙にある"Back to the Basic with Innovative Manner"の方にした。それこそ、著者の言いたかったなのだから。

著者は1990年から2004年までアップルコンピュータジャパン(当時)の社長を務めた後、日本マクドナルドの社長を務めた人。「MacからMacへ」。その経営スタイルがAppleに似るのはきわめて自然であるが、Apple Inc.そのものよりも日本マクドナルドの方がはるかに一般化しやすい。まずはその違いを紹介しよう。

P. 25
現在も日本で一番おいしいおにぎりをマクドナルドのレジの横に積み上げれば、必ず売れると私は思っています。ただ、それは絶対にやってはいけない。マクドナルドでしかできないことではないからです。

Jobsと著者の決定的な違いは、自社にしかできないことが何かを決定を下せるか否か。

本書には「勝てば官軍」に対する言及は一切ないけれど、しかし著者就任以前の日本マクドナルドの失敗が、藤田体制下で日本マクドナルドがマクドナルド以外の何かになろうとしてしまったことにあることは読みちがいないようがない。著者の功績は、それを正したことにつきる。

それではなぜ著者にそれが出来たのか。製品の素人で、経営の玄人だったからだ。

P. 8
すなわち知り過ぎると変革のリーダーシップを執れない。知り過ぎることが障壁になる。自分の経験から言えば、今の政治においても、さまざまな企業の改革についても、経験が長く知識が豊富であるからこそ変化できないバリアになっているのではないかとも感じます。

本書の主題たる Back to the Basic with Innovative Manner を実現するにあたって、製品の素人である経営の玄人をリーダーとすることがいかに効果的かは、「巨象も踊る」も示しているところだ。この普遍的な手法はむしろ日本において積極的に採用されるべきことはオリンパス事件を見れば実感できるのではなかろうか。

その障害となっているのは、「社長は職位」であるという誤解。著者はこれを一刀両断する。

P. 132
店長の始動は、それをする立場の人間がいるわけですから、そこに私は干渉しません。もう一つ言えるのは各店長はお店に関しては私より先輩です。先輩に向かって、お店のここが汚い、ここが悪いなんて言えません。
社長というのは職位ではない、職種だと言っています。

社長の仕事は、店長が店長の仕事を出来るようにすることであって、店長に店長が何たるかを諭すことではないのだ、と。

「社長は職位」であるという誤解は、社長だけでは解けない。社長に限らず、「肩書きは職種」である意識を全職種の人が共有してはじめて解けるのだ。社長以外の人が本書をひも解く理由は、これで充分ではないか。

Dan the Bossless