なんという毒茸。

高木浩光@自宅の日記 - spモードはなぜIPアドレスに頼らざるを得なかったか
NTT docomoのスマホ向け独自サービス「spモード」が、今月20日に大規模な事故を起こして、重大事態となっている。
これに対して、docomoが会見で、「パケットのIPアドレスとユーザーをひも付けるのは自然の発想」と言ってのけたということで、技術者は皆、仰天し、「利用者識別にIPアドレスを用いるなんぞアリエナイ」といった声が相次いだ

これではSPモードがiモードを置き換えることは絶対に不可能ではないか。今回の事故があろうとなかろうと。

IPアドレスをユーザー識別につかうということは、同時利用できるユーザー数はIPアドレスによって決まるということ。このIPアドレスは、SPモードがドコモのネットワークで完結している限りプライベートIPアドレスであってもかまわない。実際スマートフォンのIPアドレスをプライベートアドレスにしてキャリアーネットワーク外のインターネットにはNATを経由させるというのは全世界的な傾向だ。

手元のISW11HTで確認したところすでにそうなっていた。ソフトバンクはまだみたいだが。

案の定、以下のページによるとドコモがSPモードで端末に割り当てているのは現時点ではプライベートIPv4アドレスとのことである。

000119408.pdf - page5

プライベートIPアドレスを用いたとした場合、同時接続できるユーザー数はどうなるか?10.0.0.0/8が224-2、172.16.0.0/12が220-2、192.168.0.0/16が216-2で、合計17,891,322個。もちろんこれは理論上の数値で、IPアドレスの仕組みがアドレス効率を犠牲にして、ルーティング効率を上げている以上実際に使えるのはぐっと少なくなる。

ところが、iモードの契約数は2011年11月時点で4556万にもなる。

なんともご丁寧なことに、同ページにはSPモードとiモードの合計契約数も書かれていて、ドコモがSPモードをiモードの後継サービスであると見なしていることが見てとれる。その数、5165万。すでにSPモードの契約数は609万にも及ぶ。現段階ですでに理論限界の1/3を超えている。スマートフォンが倍々ゲームでフィーチャーフォンを置き換えている現在、来年の今頃にはもう理論限界を突破していてもおかしくはない。

どうみても足りません。ありがとうございました。

もしサービス内容がインターネット接続のみであれば、プライベートIPネットワークを複数運用すればいいだけだ。あなたの家やオフィスのルーターが私の家のルーターと同じプライベートアドレスをそれぞれの端末に割り振っても何の問題も起きないのと同じだ。もちろんこの場合はIPアドレスを端末識別に利用できないため、端末個別(⊂ユーザー個別)のサービスを提供したかったらユーザー名とパスワードの対など、「ふつうのインターネット」と同じ識別手段を用いることになる。

しかしSPモードという巨大イントラネットで、IPアドレスで端末識別をしているとなれば話はまるで異なる。iモードの半数がSPモードに切り替えたとして、さらにその半数が「あけおめ」メールを確認しただけでバルス。

もちろん、この「プライベートIPアドレスでさえ枯渇してしまう」問題は、IPv6に切り替えれば解決しないことはない。しかしそうすることで当然SPモードの各サービスも「識別子フォーマット変更」という小さからぬ仕様変更を必要とするし、そういう危機感は前述のPDFからは感じられない。

NTTドコモのIPv6アドレス対応の取り組み
spモードは当面は既存の仕組み(IPアドレス/ポート変換)で対応可能であるが、スマートフォンの 急増をふまえてIPv6対応も検討していく。

今年の6月段階で「検討していく」。そんな暢気で大丈夫か?

いずれにせよ、今回の事故抜きでもSPモードが破綻するのは確実にしか思えない。

spモードが目指すところはそもそも技術論的に無理があるのではないか。今一度、技術者の声に耳を傾け、根本から考え直す勇気を持ってはどうだろうか。

あるいは、「一介の」土管屋になることを受け入れる勇気か。

Dan the ex-Customer Thereof