出版社より献本御礼。

なんともいいタイミングだ。

Jobsのまとめが、Jobsなき後のAppleの決算がまとまったところで上梓されるとは。

Apple (日本) - Apple Press Info - Apple、第1四半期の業績を発表
2012年1月24日、カリフォルニア州クパティーノ、AppleRは本日、2011年12月31日を末日とする14週にわたる2012年度第1四半期の業績を発表しました。当四半期の売上高は過去最高の463億3,000万ドル、純利益も過去最高の130億6,000万ドル、希薄化後の1株当り利益は13.87ドルとなりました。前年同期の業績は、売上高が267億4,000万ドル、純利益が60億ドル、希薄化後の1株当り利益が6.43ドルでした。売上総利益率は、前年同期の38.5%に対し44.7%となりました。当四半期の米国市場以外の売上比率は58%でした。

本書「ジョブズは何も発明せずに すべてを生み出した」の主題は、実はJobsでもAppleでもない。本書の主題、それはinvention=発明とinnovation=革新である。

はじめに
「インベンション(発明)」と「イノーベション(革新)」の間には、大きな境界線がある。「インベンション」はつまるところ、自己満足に過ぎないが、「イノベーション」は世の中の人々に満足感を与え、世界に変化をもたらす。

英語でも混同されがちなこの二つの違いこそが、Appleと他を分ける違いだったのだ。

もちろん、Appleだけが革新的な会社ではない。例えば以下の記事、「歴史上最も偉大な『技術系』企業」は、Appleですら三位に位置づけている。

The Greatest Companies In The History Of Technology, Period.
Our rankings are based on which companies had the biggest impact on the lives of people. We also factored in the evolving definition of "technology."

大いに疑問を呈したくなる気持ちを抑えて同記事を見て気づくのは、そこで取り上げられた企業のうち、任天堂とソニーを除く全ての企業が米国企業だということ。欧州企業が一つもない。米国のメディアである以上米国びいきはさておき、そうなるとむしろ驚くべきなのはその中に日本の企業が二つ入っていることではないか。

asin:B006WP6F0Q
COURRiER Japon 2012年03月号

「独断と偏見に基づいたランク付け」である同記事は、しかし「だいたいあってる」。何があっているかというと、この点において日米のプレゼンスが圧倒的だということである。もう少し独断と偏見が少ない記事も紹介しよう。

COURRiER Japon 2012年03月号 P. 11
昨年11月、情報サービス会社トムソン・ロイターは「世界の革新的企業トップ100社」を発表した。特許権数のほか、特許登録率や論文に引用された買うなど4つの基準をもとに選出したところ、トップ100社に自国の企業が入ったのは全部で9ヶ国。

その内訳、米40、日27、仏11、スウェーデン6、独蘭韓それぞれ4、スイス3、リヒテンシュタイン1。米国の40は圧倒的にしても、日本は下位4ヶ国をあわせたよりも多いのだ。革新的であることにかけて、日本はけっしてひけをとっているのではない。

なのに「遅れをとっている」感があるのはなぜなのか。いや、感ではなくそれが数字にもああして表れるのか。日本企業だけではなく、Appleのライバル達軒並み。

InventionとInnovationの違い、だとしか言いようがない。そういえばInventとはHPのスローガンでもある。Business Insiderのリストでソニーの後ろになった理由はそこだったりして…

一つ救いがあるのは、innovationの価値は数ではないということ。Appleの決算を見れば、本書をひも解くまでもなくそれがわかる。決算書に具体的な商品名を並べて書けるほど、同社の製品種数は少ない。前四半期に限って言えば、新製品は iPhone 4S と iCloud しかなく、そしてイノベーションとまで言えるのは iCloud だけなのだ。

この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」と村上龍は作中の人物に言わせた。希望ならある。Jobs復帰直後、1997年のAppleより、ずっと。

足りないのは、イノベーション。

ほんの、少しだけ。

Dan the Sufficiently Inventive and Insufficiently Innovative