ちょうどそれくらいの歳だったけ。
私が日本の高校に進学せず、米国の大学に行くことを決意したのは。
しかし未成年が決意するだけで行けるほど近い場所ではないのは、四半世紀前も今も同じはず。
というわけで行くにあたって私が何を用意したのかをざっくりまとめておくことにする。
前置き
とりあえず本題に入る前に、私自身についてのおさらい。以下のリンクを参照のこと。
- 小飼弾 - Wikipedia
- 404 Blog Not Found:小飼 弾 Errata, Addeda & FAQ
- 404 Blog Not Found:家出を知らない子供たち
- 404 Blog Not Found:オレの内申点ってどこいったんだろうなあ
で、本題だけど、アメリカに行ってエンジニアリングを学ぶ前に用意しておくべきものは、一言で言えば「力」ということになる。「力がないからその力を得るために行くんじゃないか」という言い分はもっともなのだけど、ジェットエンジンを点火させるのだってAPUがいるように、力を手に入れるためにも力が必要なのは世のことわり。このことは国や時代が変わっても変わらない。
その「力」はだいたい以下の三つに分けられる。
1. 学力
どの程度かといえば、米国の高校卒業生以上の学力が最低ラインということになる。ちょっと考えてみれば当然で、米国の大学は根本的には米国人のために存在している。今では留学生のおかげで彼らの生計がたっているというのも一面の事実ではあるけれど、米国人をさしおいてまで外国人をひいきする理由があるのだとしたら、米国人をさしおいてでもその外国人を入学させた方が彼らにとってメリットがあることを示さなければならない。
@cloooote君の場合、学校ではなく個人的に弟子入りする形をとりたいみたいだけど、だとしたら必要な学力はずっとずっとずっと大きくなる。アンディ・ベクトルシャイムがペイジとブリンに小切手を切ったとき、彼らはもう検索エンジンを具現化してたんだよ?
1.1.語学力
で、学力は大きく二つに分けられる。語学力とそれ以外。この語学力にしてから「米国人以上」を実は求められてたりする。IBT以前のTOEFLで550点以上、有名校なら600点以上といったところ。
1.2.それ以外の学力
この部分は比較的楽(特に数学)なのだけど、それでも前述のとおり要求されるのは中卒ではなくて高卒以上。これを何らかの形で証明しなければならない。私の場合、大検とSATとACTとAchievement testでそれをクリアしたのだけど、理数系はほとんど満点だった。まあSATの数学とか、受験者をバカにしているのかと思うほど簡単ではあるのだけど。
2.外交力
実に歯がゆいことだけど、未成年のうちは何をやるにも保護者の承諾というやつが要る。いかに保護者がいやな奴であっても、たとえ必要な費用(後述)を全て自分で稼ぎだしたとしても、彼らの同意なしには入学どころか入国さえおぼつかない。私の場合、これが一番大変だった。
私の意図に120%賛成だった母はとにかく、「とにかく東大行け」の一点ばりだった父(だったらてめえが行け)の同意を取り付けるためには、息子が東大に行くより息子がそこに行った方が彼にとってメリットがあることを示す必要があった。UCBには日本全体をあわせたより多くのノーベル賞受賞者がいたこと、HarvardやMITに劣らない難関校であることなどを何度もプレゼンした。映画「卒業」には助けられたなあ。あれのロケ地がUSCというのを後に知った時には多いにずっこけたけど。
外交力を問われるのは、もちろん親に対してだけではない。学校に対してだってそうだ。米国の大学に受験はない。上で述べた試験の成績というのはあくまで参考資料で、あなたは志望校に対して--他の数多の志望者をさしおいて--あなたが入学することで志望校にどんなメリットがあるのかを示さねばならない。この点において米国の大学を志願するのは大学入試より就活にずっと近い。
3.財力
日本もそうだが、米国の大学もただではない。それどころか学費と生活費をきちんと賄えることを書面で用意する必要がある。たいていの場合、ヴィザを発行してもらうのに預金証書が要求される。学費+生活費2年分ぐらいだったか。
そしてこの点に関する状況は、私が入学したときより確実に悪化している。
College tuition in the United States - Wikipedia, the free encyclopedia
私が入学した頃の、何と4倍。円高を差し引いても倍になっている。我が家の娘達も留学したがっているのだけど、すでに私は戦々恐々状態。
まとめ
もし「(ソフトウェア)エンジニアになりたい」というのであれば、そのために米国に行くというのはコストパフォーマンスが悪すぎると率直に思う。私が行った頃、学費は今よりずっと安く、そしてiTunes Uはおろかインターネットすら無いに等しい状態だった(いや、UCBにはあったけど、一般開放されているとはとても言えなかったし、Webもなかった)。もし私が生まれるのが25年遅かったら、当時と同じ選択をしただろうか?
しかし当時の私は、とにかく遠くに行きたかった。父の目と手がないところへ。東京じゃ近すぎたのだ。
その経験がなかったら、私は日本でうまくやっていくことも出来なかっただろう。
14歳の、アメリカに行ってエンジニアリングを学びたい少年へでも、渡米することのメリットは、英語を覚えることでも、シリコンバレーに近づくことでもなく、「他の文化に頭までつかり、多角的な視点を養うこと」だということを、忘れないでください。
それ以上に私が得たメリットは、どんな文化でも通用する視点、強引に数学で例えると「世渡りの不動点」を見つけたこと。
それは、他者の力を乞うには、自らも力を持たねばならないということ。
それは、他者から何かを得るには、自らも与えるものを持たねばならないということ。
それがわかったとき、あれほど自分の居場所がないと思っていた日本で、いくらでも自分の居場所を見つけることが出来るようになった。
日本全国の @cloooote 諸君、あなたにはどんな力がありますか?
あなたはあなたを助ける者に、何を与えられますか?
現時点で10必要なら10揃える必要は必ずしもないんです。見込みでいいんです。出世払いOKなんです。14歳の私だって「耳を揃える」のに3年かかったのですし、17歳の時点でだってせいぜい私の手持ちは5ぐらいでしたし。
でも、ゼロのままでは到達距離もゼロです。その程度は14歳の私にもわかってましたよ?
Dan the Dropout
udacity、面白そうですね!
「大学レベルの講義の無料化」という前例はありますが、Computer Scienceに絞っている点に惹かれました。
「英語力」+「その他の学力」がなければ、(弾さんの記事中にもあるように)留学もできないしudacityやiTunesUも利用できない。
一方で、「英語力」+「その他の学力」が米国の高卒生と同等以上にあるならば、日本にいながらにして米国の大学で学ぶのに近い学習を行うことができる。
弾さんが”「(ソフトウェア)エンジニアになりたい」というのであれば、米国に行くというのはコストパフォーマンスが悪すぎる”と仰るのも分かります。