設問が間違っていては、たとえその設問に対する答えが正しくとも意味がない。

Life is beautiful: 誰も言いたがらない「Sony が Apple になれなかった本当の理由」
そろそろ、「会社は誰のためにあるか」という根本の部分から見直さないと日本の家電メーカーは世界で戦えない。TPP で市場を開放する前に、しておくべきことは沢山ある。

それではなぜHPもDellもNokiaも、MicrosoftですらGoogleですらAppleになれなかったのかを問わねばならないだろう。

もっと的確な設問があるではないか。

なぜAppleはSonyになれたのか?

どれほどAppleが--昔日の--Sonyになりたかったのか、どれほどJobsがAppleをSonyにしたかったのかの証拠はいくらでもある。盛田昭夫の死を悼むJobsの姿は、そのほんの一例に過ぎない。

なぜ今のAppleはかつてのSonyになり、そして今のSonyはかつてのAppleになってしまったのか。

詳しくは「iCloudとクラウドメディアの夜明け」をひも解いていただくとして、私の答えは、こうだ。

個人が利用する製品を個人に売り、買った本人から代価を得ているから。

Appleの競合をよく見てみよう。彼らの本当の顧客が誰なのか。Nokiaの顧客は各国のユーザーではなくキャリアー。数多の携帯電話端末企業もこれに同じ。DellやHPの主顧客は、個人ではなく企業。Microsoftの顧客は、個人ではなくDELLやHP。そしてGoogleの顧客は、ユーザーではなく広告主。

「個人が利用する製品を個人に売り、個人から代価を得る」。これは個人にとっての常識であると同時に、企業にとっての非常識でもある。企業にとって企業は個人より遥かに効率のいい客だからだ。1万円の品物を1万人に売るより、100万円の品物を100人に売る方がずっと楽だし、1億円の品物を1人ならさらに楽になるのは商売をしなくともおぼろげにわかるが、実際に商売をすればそれは頭ではなく腹でわかるようになる。

快進撃・アップル社支える「日の丸工場」の底力【2】 :PRESIDENT Online - プレジデント
エンジニアどうしですから、極端に無理な要求がくることはありませんよ

なのにAppleは数万円の品物を数億人に売ることを選んだのか。数億円の品物を数万社ではなく。

なぜAppleは、個人という一番気まぐれで、一番気難しい顧客を選んだのか。

一番気前がいい客だからだ。

確かに企業は製品の品質に関して必要以上の無茶は言わない。しかし製品の価格に関してはいくらでも無茶を言う。「半値八掛け二割引」。およそ企業顧客が定価で製品を買ってくれることなどありえない。時と場合によっては贈賄さえ必要になったりもする。しかも「決める人」と「使う人」と「払う人」が別人物なので、たとえ利用者にとってベストでなくとも購入担当を丸め込めば商談は成立するし、払うのは個人ではなく会社なので億円オーダーでも決める人の実感は薄くなりがちだ。

個人は違う。いくら安くても気に入らなければサヨナラだし、ある程度値が張っても気に入れば定価で買ってくれる。そして身銭を切っている以上、品質に対する思い入れは他人事ではなく自分事となる。

もちろんAppleとて全てを自製しているわけではない。そんなことが出来る者は企業どころか国家規模ですら存在しない。しかし素材を製造しなくともそれを吟味し、設計し、客に対して責任を持つことはできる。

それが最も端的に現れるのが、ハードウェアとソフトウェアの境目。

本田雅一のクロスオーバーデジタル:“新しいiPad”が追求したスペック以上の魅力 (1/2) - ITmedia +D PC USER
Androidタブレットのメーカーは、そろそろ「汎用OSを載せてカスタマイズ。ハードウェアはパソコン的に作る」というアプローチを見直さなければ、いつまでもiPadに追いつけないのではないだろうか。

外注された魂で満足できるのは、せいぜい企業どまり。自腹を切った人には通用しない。

なぜ他社がAppleになれないか。

他社の顧客は、Appleのそれとは異なるからだ。

同じである必要は全くないと私は思う。個人は最上客であると同時に最難客でもある以上、そのニッチを得るのは最大企業か個人企業かという両極端に向かわざるを得ないし、XserveやiAdを見れば、Appleとて誰にでも勝てるわけではないこともわかる。

しかし「誰を主たる顧客とするか」という点において、日本の大企業の焦点のあてかたが他よりぼけて見えるのも確かだ。なんで東芝や日立は原発からコーヒーメーカーまで作っているのだろう?まるでゾウであるのと同時にネズミでもあろうとしているようではないか。

まずは誰を顧客にするか決めること。

それが決まらないことには、どんな人員配置が適切かなんてわかるわけがない。

そしてもしAppleと同じ、個人という最上最難客を取りに行くことに決めたのであれば、長期戦を覚悟して欲しい。最初のApple Storeがオープンしてからもうすぐ11年が経とうとしている。それくらいかかって当然と心得るべきだろう。

Dan the End-User & Final-Payer