出版社より献本御礼。
循環器の理解なくして人体の理解がありえないように、エネルギーの理解なくして人類の理解はありえない。そして循環器系統の疾患の克服が医療にとっての最大の課題の一つであるように、エネルギー問題の克服が人類にとって最大の課題の一つ--個人的には「一つ」は不要だと考えている--であることは間違いない。
この話題を包括的に扱うにあたって、「石油の世紀」の著者以上の適任者がいるだろうか?
本書「探求」の副題は、原題"The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World"にあるように、「(新)エネルギー、安全保障、世界秩序の再編」。上下巻で合計1000ページを超す大著になるのも、扱う課題の大きさを考えれば当然とも言える。
目次
上巻
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下巻
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とはいえ、このレベルの大著だと、副読本が欲しくなるひともいるだろう。そういう方には「「燃料電池」のキホン」と「「再生可能エネルギー」のキホン」をおすすめする。決して図版が少なくない本書ではあるが、やはり文字主体の本書と図版主体のこの二冊はよい相互補完関係にある。こちらもこの場を借りて献本御礼。
本書における日本の扱いは、実に大きい。東日本大震災とそれによる福島第一原発事故で本書がはじまるのは上梓された時期を考えれば当然と言えるが、しかしそれが「日本をひいき」した結果ではなく、化石燃料なき先進国という、エネルギー問題の最先端に否が応でも立たざるを得ない、つまり本書の課題を書くにあたって避けて通れない事例として取り上げられているのがよい。日本がどういう課題に直面し、それを克服してきたかというのは、人類の宝なのだ。
そして好感が持てるのが、「予断を許さず、悲観せず」という姿勢。過剰になりがちな新エネルギーに対する期待を、まずはこう諌めている。
私たちはエネルギーの"偉大な革命"の新段階のとば口にいるのだろうか?エネルギー移行にはだいたいにおいて長い時間がかかることを、じっさいに歴史が示している。石油が石炭を追い抜いてエネルギー源第一位の座につくまで、一世紀近くかかっている。
しかし、こう結ぶのを忘れない。
だが、道理に基づく革新をもっていえるのは、なにより重要な資源と思われるもの--つまり人間の想像力が、ますます利用できるようになっているということだ。ある有名な地質学者がかつていったように、「石油は人間の頭の中でみつかる」。二十一世紀のためのエネルギー対策は、世界中のひとびとの頭のなかで見つかるだろう、とその言葉を修正しておこう。そして、その資源ベースは成長している。
本書はまさに、その資源ベースへのグランド・セントラル・ステーション。今後エネルギー問題を語るにあたって、本書は「大前提」となるのは間違いない。ご一読を。
Dan the Energized
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