こういう記事を見て、知っている人ほどこう感じるのではないか。
レーザー核融合、連続反応に成功 光産業創成大学院大など | 静岡新聞光産業創成大学院大(浜松市西区)は4日、浜松ホトニクスやトヨタ自動車などとの共同研究で、レーザー核融合反応を「爆縮高速点火」による手法で100回連続して起こすことに成功したと発表した。同手法での連続反応は世界初。効率良く大きな熱エネルギーを生み出す手法での達成に、同大学院大の北川米喜教授は「レーザー核融合発電の実現に向けた第一歩を踏み出せた」としている
何匹目の狼か、と。
「核融合への挑戦」、私は新旧双方を持っている。旧版の第6章には、「実証炉が1995年、2000年には実用化」と書いてる。これが新版の20章には、「2050年ごろ実用化、これを急いで2030年ごろにできないか」となっている。
これ、あまりに象徴的なのでニコ生サイエンスをはじめあちこちでつかみネタに使わせていただいてるぐらいなんだけど、実際現時点で核融合エネルギーがどれだけエネルギー問題を心配している人たちに期待されている--あるいはないかというと、「探求」でも完全にスルーされているぐらい。同書にはきちんと索引がついてくるのだけど、核融合のカの字もなければITERのIの字も出てこない。
確かに火打石や火きり棒で「火がつきました」という段階で、火力発電所のことを語るのは早いかも知れない。それで付いた火でかまどを作って薪をくべて、その上にやかんをのせて、そこから出る蒸気でかざぐるま(ひらがなで書いたのは「風車」だと風力発電用の「ふうしゃ」も想起しちゃうから)を回すぐらいのことをしてやっと「これで発電所 や ら な い か ?」となるだろう。
で、実際調べてみると、「かまどを作って薪をくべ、その上にやかんをのせる」のは、火起こしに負けず劣らず難しいようなのだ。
目下核融合エネルギー実用化で狙っているのは、磁場閉じ込め方式にしても慣性閉じ込め方式にしても、一番「点火」しやすいD-T反応と呼ばれるもの。

火がつきやすいかわりに、この反応には三つ問題がある。
- Dは海水にいくらでもあるけど、Tは自然界にあんまりないよ!どうやって入手するの?
- エネルギーの八割は中性子の運動エネルギーだけど、これでどうやって湯をわかすの?
- この中性子、外に出たらやばくね?これって中性子爆弾じゃん?
これに関する目下の答えは、次のとおり
- Liに中性子ぶつければ、HeとTができるよ!しかもD-T反応だと中性子がちょうど出来るからそれ使ってLiからTを作ればいいじゃん。実は水素爆弾もそうしているよ!
- 中性子を物にぶつければ、運動エネルギーが熱になるよ!
- 2.の段階で中性子もゆっくりになって外に出なくなるよ!
この三つを具体的にやる。つまり「足りない燃料(T)も作ってくれるやかん」に相当するのが、ブランケットという部品で、磁場式でも慣性式でも原理はほぼ同じ。電気毛布ならぬ中性子毛布。
ブランケット - Wikipediaブランケットとは核融合炉の内壁を構成する装置のひとつ。冷却、燃料生産、遮蔽の3つの機能を担う
でも、「点火」と違って、こちらはまだ一度も実験されていない。その意味では、
点火だけならプラズマも慣性封じ込めも出来てる。投じた以上のエネルギーを得るところに困難がある。今は1円稼ぐのに1万円使ってる状態 / “レーザー核融合、連続反応に成功 光産業創成大学院大など | 静岡新聞” htn.to/bcEYe7
— Dan Kogai (@dankogai) April 8, 2012
どころか今まで何兆円を投じて一円も稼いだことがないのが核融合の現状なのだ。
で、このブランケットをはじめて実装するのがITER。ITERの最重要任務がこれだと言っていいはず。で、それがいつになるかというと、英語版Wikipediaによると2026年。
ITER - the way to new energy
見ての通りITERの公式サイトには2019年の"First Plasma"までしか書いてないけれど、それだけではただのでっかいJT-60ないしJETと変わらない。D-T反応を起こして、それでブランケットがTと熱を作って、高速中性子から自分自身と周辺環境を守れることを証明してはじめて「これでいける」となる。しかも実際にはまだITERのブランケットは湯を沸かさないので、「いけた!」となるのはさらにその後となる。
余談だが、日本はITERの建設予定地をフランス(というよりEU)に譲った代わりに、このブランケット開発の主導権を得ている。
それにしても正直、ここまで実用化に手こずっている技術もないだろう。水爆(1952年)から今年で60年。ITERのロードマップ(これも遅れまくってる)どおりに行ったとしたら、80年。まるまる人の一生分。ライトフライヤーが747になってさらにおつりがくる年月。
それでも諦めずにやってこれたのは、その見返りもまた巨大だからだ。このあたりは、私がどうこう言うより以下のサイトがご覧になるのがよいだろう。
磁気でも慣性でも日本がトップランナーなのも、切実度が他国よりも大きいことの裏返し。
それでもさすがにそこまで待たせると、太陽光や風力もかなり普及しているだろう。「嫁」たる納税者に愛想をつかされなければいいのだが…
Dan the Taxpayer
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