出版社より献本御礼。
やはり中の人というのはすごい。「Inside Apple」を読んでもわからないことが一目でわかる。
なあんだ。秘密なんて何もないじゃないか。
あるのは、責任と権限。ただそれだけ。
本書「僕がアップルで学んだこと」は、スカリー時代からスピンドラーを経て、ジョブズの時代となったAppleで計16年過ごした著者が…
Steve Jobs の思い出 | まつひろのガレージライフ他にも書いていくときりがないんですが、また機会を改めて書いてみたいと思います。
…改めて書いたもの。
前掲の"Inside Apple"をはじめ、Appleの「ブラック企業」ぶりは「Apple本」であればまず載っている。Appleの「ブラック」ぶりというのは、「労使協定?なにそれおいしいの?」的な、近年の日本における「ブラック」であると同時に、製品がブラックボックスであるという意味でもブラックであり、開発中の製品情報が出てこないという意味でもブラックである。三重にブラックなのだ。
しかし、なぜそれほどブラックなのに「もう限界」にならないのかに対して充分な説得力を持つ本というのは、実はあまりない。外からもある程度うかがい知ることが出来る、社員たちが背負った責任の重さに関しては書かれてはいても、それを果たすために与えられた権限の大きさは、中の人でないと知りようがないからだ。
Appleという会社は、社員たちに他の会社であれば「会社ぐるみ」で追う責任を個人的に背負わせ、その代わりにそれをどう背負うかは裁量に任せている。最大の責任と、最高の権限。これに「誰に対して責任を追っているか」まで加えれば、Appleという会社の形はもう自然に出来上がる。
なぜAppleは
- やたら秘密主義なのか
- やたら製品の種類が少ないのか
- やたら売れているのか
これらの疑問は、すべてそれで説明が付く。
Appleは、社員個人が個人ユーザーに対して責任を追い、その責任を果たすために充分な裁量を社員に与える。
Appleの顧客が個人ユーザーであり、一見そう見える他の会社が実はそうなっていないことは以前実は誰もが知っている「AppleがSonyになれた本当の理由」にも書いたが、大事なことなので改めて実例を見ていこう。
たとえば、NetBook。これはASUSがEeePCで事実上確立した概念であるが、Windowsを搭載しようということになってから「ただの安物ノートブック」になってしまった。Microsoftが出した条件をベンダー各社が呑まざるを得なかったからだ。
404 Blog Not Found:売上6倍、時価総額6割 - HPとAppleに学ぶ、デザインの力このモデルに限らず、発表会での質疑応答に、自ら全てを采配することが出来ぬ悔しさがにじみでていた。たとえばネットブック。あいもかわらず標準搭載RAMが1GBしかないのは、「Windows免税点」がそこにあるからだ。2GB以上積めれば見違えるように魅力的になるのに、それを100も承知しているのに、HPは指をくわえているしかないのだ。
そしてultrabook。
ウルトラブックの現状にはウルトラがっかり?今年はウルトラブックの年になると言われていた。薄くて洒落たノートパソコンが標準になるのだと言われていた。インテルの最新ウルトラモバイルプラットフォームも発表されると言われていた。
いずれも実現していない。少なくとも今のところはまだだ。実のところそれは驚くに値しないことだ。
これもぶちあげたのはIntelであって、それの大きさはどれくらいで、そこに何を入れて何を入れないかというのはIntelが決めている。最重要とはいえ一部品メーカーに過ぎないIntelの言うことを、ユーザーを差し置いてなぜ各社がきいてしまうのかといえば、報奨金が出ているから。「AppleがSonyになれた本当の理由」にも書いたが、企業からまとまったお金が手に入ると、どうしても個人から目がそれてしまう。
その結果、出来上がるのはこんな製品。

これではユーザーはおろか、メーカーでもわけわからなくなってしまう。低価格以外の何が売りなのかわからないし、仮に売れたのだとしても儲からない。しかし恐ろしいことに、企業どおしの馴れ合いに慣れてしまうと関係者一同それでよくなってしまう。だって自分の責任じゃないんだもの。
著者は言う。Jobsの一番えらかったのは、それを「自分の責任」にしたことにある、と。
自分の責任であれば、安請け合いは極力避けるようになる。その結果、製品の種類は減る。覚えられないほど製品があったら責任とりきれないではないか。その代わり、残った製品のことは、隅から隅まで頭に入り、問題があれば自分の責任でそれを正すことができる。例えば MacBook Air が他のMacと異なるのはハードウェアだけではない。OSもそれ用にチューニングされている。技術的に難しいところは何もない。が、他社に責任を負わせようとしたとたん、それは不可能になってしまう。
正直、Appleの社員であることに誰もが耐えられるわけではない。それは個人顧客という「モンスターカスタマー」に自己責任で耐えるということなのだから。数億人の個人からなる群衆に比べたらJobsに耐えるぐらいどってことないだろう。しかし、Jobsよりも恐い「神々」と対峙する自信と覚悟があるなら、これほどやりがいのある職場もないだろう。
それにしても面白いパラドックスではないか。普通の人には興味がない、宇宙人、未来人、超能力者向けの職場こそが、普通の人のための製品を最も上手に作るというのは。
Dan the One of Monsters to Them
このブログにコメントするにはログインが必要です。
さんログアウト
この記事には許可ユーザしかコメントができません。