著者、つまり日経デザイン編集部より献本御礼。

P.69
デザインというのは奇妙な言葉で、
どう見えるかということだと考える人がいる。
しかし、もっと深く考えると、実際にはどう機能するかだ

本書に何が記されているかといえば、これに尽きる。

いくら 決算の数字を眺めても見えないことが、これで見えてくる。

本書「アップルのデザイン」は、上記のJobsの言葉どおりの意味のデザインを、今までで最もよく著した一冊。この点においては公式伝記"Steve Jobs"をも上回る。同書にはJobsがどうAppleをデザインしたかは書かれていても、AppleがどうiPhoneやiPadやiPodやMacをデザインしたかまでは書かれていないのだから。

目次
【第1章】ジョブズにとってデザインとは何か?
【第2章】分解して分かるアップルデザインの真髄
【第3章】触れてうっとり、インターフェースの秘密
【第4章】アップルストアに挑んだ日本人デザイナー
【第5章】アップルの広告・グラフィックデザイン
【第6章】革命の始まりはiMacだった
【第7章】アップルが争っても守りたいデザイン
【第8章】ジョブズが夢見た未来のデザイン

烏骨鶏というニワトリがいる。真っ白な羽毛に、骨まで真っ黒な血肉。本書の第二章に出てくるApple製品の解剖図を見ると、この烏骨鶏を思い起こさずにはいられない。あの簡潔で洗練としたiPhoneの「内臓」は、簡潔でもないし洗練されているわけでもない。たとえば音量ボタン。あれ、ゴムではなく金属バネをスポット溶接している。iOS5でシャッター機能を後付けしても違和感がないのは、そうやってきちんとクリックできるからこそなのだ。

あるいは、初代iPod Shuffle。あの「ただのプラスティック豆腐」感を出すために、あそこまでの苦労があることは、プロの目を通してみないとわからない。私はハードウェアの素人なので感心しきりだったのだが、その意味ではもう少しソフトウェア成分が欲しかったとも思う。この点に関しては増井俊之のインタビューがあるなど決して手を抜いているわけではないにしろ、独立した一章を立てるに充分な部分なだけに。

その一方で、日経ならではというのが第七章。法廷戦略もまた、Appleとは切っても切れないデザインであることが本章を見ればわかる。いや、Samsung Galaxyを持っている人はこの章を見るのは避けた方がいいかも知れない。自分がそれのオーナーであることが恥を覚えずにはいられなくなるから。

それもあって私はAndroid Phoneを選ぶに当たってはHTCにしたのだけど、しかし第2章に戻るとデザイン不足を改めて思い知らされて悲しくなってくる。特にロックボタンのダメさかげんと、毎日「自発的再起動」するOSの不甲斐なさには。

そのAppleをデザインしたJobsが亡くなってもう二四半期。Appleのデザインが本当に同社の血肉となったのか、それとも一過性のものだったのかはまだ判断できない。iPhone 4Sにしろ新iPadにしろ、デザインは生前のものだからだ。ポストJobsのデザインがどうなるのかは、おそらくMacBookのフルモデルチェンジあたりまでは見えてこないだろう。

しかし「デザインとは機能」というJobsの指摘は不滅で普遍的だ。つまりAppleの専売特許ではないということである。Apple以外の手による、デザインの名にふさわしいデザインを魅せてくれるのはどこだろう…

Dan the Customer Thereof