アリがたくも出版社より献本。
ア…アリのまま今読んだ事を話すぜ!
「おれたちは文明を進歩させていたと思ったら、やつらの後を追っていただけだった」
な…何言ってるのかわからねーと思うが…おれも何を読まされたのかわからなかった…
血縁選択説だとか超個体だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
本書「ハキリアリ」、原著"The Leafcutter Ants"は、題名通りの一冊。
ハキリアリとは、何か。
究極の真社会性動物である。
まず、アリがどのような存在なのか、改めて確認してみよう。
P. 11これまでに見つかっている動物のほぼ半分は昆虫であり、約九〇万種にのぼる。そのうち、最も発達した「真社会性」の昆虫と呼べるのは全体の二パーセントに過ぎない。
にも関わらず…
P. 13ドイツの昆虫学者がブラジルのアマゾン流域で高地の森を調べたところ、アリ類とシロアリ類(すべて社会性昆虫)だけで動物のバイオマス(その時点でその空間内に存在する生物量)全体の三〇パーセント近くを占めていた。ハリナシバチ類(熱帯に多い花粉食のハチ)とポリビア類(南米に多いアシナガバチの仲間)も加えれば、昆虫のバイオマス全体の七十五パーセント以上が社会性昆虫である。
「社会性」という言葉が何を意味するのかは本書で確認していただくとして、社会性の獲得というのが生物界においていかにどえらい事件だったのかというのはこれでわかる。
しかしいくら「全体の二パーセント」とはいっても、昆虫の多様性を鑑みれば、それだけでも哺乳類の多様性を軽く凌駕し、脊椎動物に匹敵することがわかる。おおよそ二万種。その中には人類が家畜化したミツバチもいれば、そのミツバチをあっという魔に屠るスズメバチもいれば、家屋の天敵ともいえるシロアリもいるが、やはりその中でも種としての勢いにおいて圧倒的なのは、スズメバチとも近縁なアリということになる。
アリ - Wikipedia9000万年前では、コハク中の化石からアケボノアリやヤマアリ亜科、ハリアリ亜科が見つかっている。この時代では、コハクに含まれるアリは含有される昆虫中0.001〜0.05%と比較的少数である
6000万年前、白亜紀末期の全生物の大規模絶滅後では、コハク中のアリの含有割合が1.2%と増加した。
4500万年〜3800万年前のコハクでは含有割合が20〜40%を占め、現存の亜科もほぼ出揃った。
地球は、まさにアリの惑星なのである。
そのアリの中で、あえて究極のアリを選ぶとしたらどのアリだろうか?巣を持たず、いや自らを「巣」とし、その「巣」の通り道上の虫を食べ尽す無敵のグンタイアリだろうか?成虫どころか幼虫まで労働に参加するハキリアリだろうか?それとも蝶のように舞い、蜂のように刺すモハメドアリだろうか?
一つアリでないのが混じってしまったが、強さといい賢さといい、いずれも究極の二つ名に恥じないアリたちであるが、しかし彼らでさえ本書の主人公であるハキリアリたちの前では見劣りするのは否めない。
彼らは、農業するのだ。
SimAntの取扱説明書は、取説というよりアリに関する読み物という点でイチオシなのだが、その中の「シロアリはアリではなくアリの食物」という一節には蟻酸を噴いてしまった。海におけるシャチのようなターミナルアニマルでこそないももの、アリは最も成功した肉食動物でもある。しかし肉食動物であるということは、その獲物以上のバイオマスを獲得できないということでもある。もしヒトが肉食しかしてなかったら、万物の霊長づらなんてありえず、今も「裸で洞穴に暮らしていたのは」間違いないところだ。
ところが、こいつらはキノコを食べる。ただ食べるのではなく、それを育てる。名前の由来ともなった葉を切るのは、それを食すためではなく肥料として回収するための行動だ。雑草ならぬ「雑菌」も駆除すれば、どうやら品種改良までしているらしい。これがこの先生きのこるのにどれほど有利か、同じく農業で世界に躍進したヒトは身をもって知っているはずだ。きのこる先生とは彼らのことだ。
学ばずには、いられないではないか。
そんな彼らで丸ごと一冊の本書は、一ページ一ページが滋養であるが、ハキリアリが葉を直接食さないように、本書もまた読者の脳内農園を育てるためにある。そんなわけで本書以外の「葉」も集めまくったのだが、その中でもひときわ目をひいたのが、こちら。
アリファンには堪えられないblogだ。ありがたいことにハキリアリも登場する。そこから一葉だけ写真をお借りする。何だかおわかりになりますか?

小型のアリが大型のアリのサナギを襲っている場面、ではない。
これ、どちらも同じハキリアリの姉妹なのだ。
P. 61たとえばチャイロハキリアリの場合、一番小さい働きアリと超大型の兵隊アリを比べると頭の幅にして八倍、乾燥重量にして二百倍の開きがある。
本書に出てくる図版は、上の写真以上のインパクトがある。ヒトvs進撃の巨人というか、巨神兵というか。
ところが、姉妹。大きい方が妹。妹は巨神兵とかいうラノベが書けそう…
究極の農耕民族といっても、ヒトとハキリアリではこれほど違う。
読まずにすませるなんて、アリえない。
Dan the Quasisocial
追記:本書を読み進めているうちに、常々考えていた社会性にというものに関して一つアイディアを得たのだけど、それは別entryをあてることに。
IT強者の弾氏にこの点を見落としてもらっては困ります。
種としてのハキリアリがグローバルな生活環境適応を可能にして、グローバルなコミュニケーションを可能にすることはたぶん不可能。人間様はそれをやってのけた。
ヒトの抜群の強さは、協同と協働に源泉がある。すべてのまともな宗教が教えることは、世界中の人たちが、ともかくもみんなお互いを大切にしあい、仲良くなること。