祝・復刊!

ずっと前から読みたくて、そろそろせどらーを肥やすのもやむなしと思っていた矢先の嬉しいニュース。

これも星雲賞効果?オビには早くも「ピア動」の星雲賞受賞が反映されてるし。でも復刊決まったの受賞決定前のはずだし…

思った以上の出来でした。これ、SFとかジャンル区分抜きで、「最初に読むのに最適な長編小説」。まさに本書における「ふわふわ」のような一冊。軽くて、それでいて丈夫な。

本作「ふわふわの泉」は、こんな物語。

カバー背より
浜松西高校化学部部長・浅倉泉の人生の目標は“努力しないで生きること"。文化祭を前に泉は、ただ一人の部員・保科あきらとフラーレンを生成する化学実験を行っていた。そのとき学校を雷が直撃! 実験失敗と落胆する泉の眼前には空気中に浮かぶシャボン玉のような粒子が生まれていた。ダイヤモンドより硬く空気より軽いその物質を泉は“ふわふわ"と名づけ、一儲けしようと考えるのだが……伝説の星雲賞受賞作、ついに復刊

今日日風にタイトルをつけると「もし高校化学部の女子部員が空気より軽い新素材を発明したら」ということになるのだけど、本書の一番の美点は、タイトルをも含めたその軽さにある。真のライト・ノベル。今日日の長ったらしい何巻もある「ライト・ノベル」は、単に長いだけではなく話の内容も劣化ウランのように重い。そう名乗るのをやめるか爆発するかどっちかにしてほしい。

対する本書は、あとがきまであわせても256ページ。しかも短編連作でもあるので小学校高学年から読みこなせる。正直これが「はじめての長編」である読者が羨ましい。私がそれくらいの年齢の頃にはもう「機動戦士ガンダム」演ってたもんなあ。こういう一つの発明からとんとん拍子で展開する「ネアカ」なお話なんて、「ラルフ124C41+」にしろ「宇宙のスカイラーク」にしろすでに「懐メロ」ならぬ「懐ノベ」だったもんなあ。

とはいえ、Factを知れば知る程Fictionも重くなってしまうというのはある程度仕方がないことで、何の脈絡もなく超光速で宇宙をかけまわる作品すら近年では希で、90年代に至っては「宇宙にすら出ない」Science Fictionが主流になってしまったのも、Ignorance is bliss、「無知は無邪気」とでもいいましょうか。

そんな中で、本作や「南極点のピアピア動画」のようなネアカな作品を、私のような「知識で汚れちまったおっさん」でも唸るように書ける著者の才能は、もう人類の宝としかいいようがない。人類の宝なので要各国語訳。

で、なんで知識で汚れちまったオッサンでも唸るのかといえば、本作がカルいにも関わらずカタいから。まさに本作の「主物公」であるふわふわのように。立方晶窒化炭素の殻をもち、中が真空の直径50μの玉。空気に押しつぶされたりしないのだ。

カタいのは、ふわふわだけではない。そのふわふわを製品化していく過程もなかなかしっかりしている。文化祭の出し物として製造していたフラーレンの代わりに偶然できたふわふわを、そのまま展示したりしないで一旦封印するところなんか主人公もなかなかの策士だし、保科昶の祖父の助言によって起業へと進んでいく過程は、起業から上場まで携わった私の目から見ても、物語というものにつきもののの紆余曲折の省略とそこから生じるご都合主義感をさっ引けば実に自然だ。フィクションなのだしこの程度のご都合主義であれば、本物を知る人でも耐えうるということは弾言させていただこう。

しかし本書の美点は、やはりカルさの方にある。本書のように無知識無教養で楽しめる小説というのは、本当に希有なのである。ふわふわが出来る原理を一切知らなくても(実は主人公たちも製法は知っていてもふわふわが出来る原理までは知らない!)、それが空気よりも軽く、コンクリートよりも丈夫という設定さえ受け入れれば物語についていける。「物語を書く時は、読者に知識はまったくなく、知性は無限にあると思って書け」というマントラに最も忠実な物語が本作なのだ。

と同時に背筋が寒くなったのは、これほどの物語でも一時的とはいえ絶版するときには絶版してしまうのだという事実。仮に今度絶版になるのだとしたら、版権を買い取った上でパブリックドメインにすることも辞さない。でも一番いいのは本作が売れつぎ読み継がれること。というわけで @Hayakawashobo++。

Dan the Optimist