やっと見本が届いたので。
One more book!
あとがき - 行間を読む
ここであえて「本を目方で」測ってみることにします。
ここでいう「目方」とは「情報量」のこと。情報量のきちんとした定義は「通信の数学的理論」(クロード・シャノン;ちくま文庫)を後で読んでいただくとして、最小の単位はビット(bit)。0か1か。これを8つ集めたものがバイト(byte)で、アルファベット1文字分。日本語の文字はアルファベット2文字分。本書ぐらいの本だと文字数は10万前後なので、だいたい20万バイト=200kバイト。今や見ることも少なくなったフロッピーディスクに余裕で5、6冊ぐらい収まります。
これが写真になると、数千kバイト=数MBになります。「百聞は一見にしかず」と言いますが、「百聞」どころか「百万聞」ぐらいになるのです。本書は文章だけではなく、書影や表紙なども立派な構成要素ですが、「目方」で見るかぎり本文より表紙の方がずっと「重い」ことになるのです。
これが動画ともなると、さらに「重く」なります。一枚のDVDには8GB強=40億文字程度の情報量が収まりますが、最新の技術(H.264)を用いると、そこに二時間程度の動画が収まります。静止画像数千枚分。僕が読む本の数は年間6000冊程度と本文で書きましたが、「目方で」見たらTV視聴二時間分に過ぎないことになります。
なのになぜ、TVを二時間見るより本を一冊読む方が「重く」感じられるのか。
僕たちが、本の行間を読んでいるからです。
たとえば、「火垂るの墓」という文字がそこに書いてあったとします。5文字、10バイト。24ビットフルカラーでは、四ピクセルに過ぎません。しかし仮にあなたが野坂昭如の短編を思い起こしたとしたらその時点で数万倍に、そしてアニメを思い起こしたとしたら数億倍に、その言葉は「ふくらみ」むことになります。
文字からしてみれば情報量の洪水に思えるような画像や動画ですら、実は「再生」する際には「ふくらませて」いることをご存知でしょうか?詳しい仕組みは「なぜコンピューターの画像はリアルに見えるのか」(梅津信幸)を読んでいただくとして、たとえば二時間のフルHD動画は、「ふくらませる」、つまり再生すると1344Gバイト、1Tバイトを優に超えています。しかし実際に記録されているのは、「たったの」数GB。数百分の一に「おりたたまれて」いるわけです。
しかし、その数GBの動画ファイルも、再生するプログラムがなければただの0と1の羅列にすぎません。「火垂るの墓」という五文字が、コンピューターにとってはわずか40個の0と1の集まり*1であるように。
そう考えると、一冊の本を楽しめるというのは実はとんでもないことなのではないかと思いませんか?本という「起爆剤」を「怪我をしないように」「爆発」させるためには、相当量の「爆薬」も必要になりますし、しかもただ量をそろえてもダメで、それを正しい位置に置かなくてはならない…
そして、本を書くという行為はこの逆に相当するわけです。読者がどんな「爆薬」を持っていて、どういう並べ方をするのかをある程度想定した上で、「起爆剤」だけを丹念にならべていく…むしろ「不発」や「暴発」が起らない方が不思議なぐらいです。
本書は、僕にとっては「空気を読むな、本を読め」(イーストプレス)、「新書がベスト」(ベスト新書)に続く三冊目の「本の本」となります。Webにあれだけ膨大な書評がすでに存在するにも関わらず(そして私自身その片棒を担いでいる)、三冊目を著すよう背中を押してくださった朝日新聞出版の大坂温子さんには当初は呆れつつも、こうして改めて「本を読んできた僕自身」を読み返すと、いかに「本が読める」ことが、文字通りの意味で「有り難い」のか、そして「本を著せる」ことがさらに有り難いのか、改めて実感しています。
そんな「本を読む」という「難事」の一助になったのであれば、これ以上の喜びはありません。
よろしければ、こちらもご一読を。
Dan the Author
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